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丸岡いずみのうつ病とハウス加賀谷の統合失調症 [Anti-psychotropic drugs]

どちらも1年ほど前に出た本だが、必要があって丸岡いずみ著『仕事休んでうつ地獄に行ってきた』(主婦と生活社)とハウス加賀屋・松本キック著『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)を読んだ。
前者は「ミヤネ屋」のニュースキャスターを勤めていた丸岡いずみのうつ病体験記。体調不良で耐えられなくなって会社を休み、郷里に帰って精神科病院へ行ったものの、彼女には「薬はよくない」という強い思いがあって、もらった薬を全部捨てていた。しかし、その後も症状はどんどん悪くなり、過呼吸症状を呈して入院することになる。そこで初めて薬を飲むのだが、すると魔法にかかったように体調が回復する――という話。
私は彼女がうそをついているとは思わない。しかし、郷里に帰って休養したまではいいのだが、彼女もよく知る認知行動療法を薬物療法の代わりに受けるでもなく、不眠が続く中、満足な食事もできない状態が続く。また、この本は服薬後2年もしない時点で書かれているが、この時点で彼女は完治したわけではなく、依然服薬を続けている。その間、結婚して日テレを退職し専業主婦になった彼女は、その後芸能プロダクションに所属してテレビでの活動を再開している。だから、恐らく現在は、いい医者の指導の下、徐々に減薬して薬をやめたものと推測される。だとしたら、とても運がいいとしかいいようがない。
しかし、医師も「丸岡さんは薬が教科書的に効く人ですね」と言うほどの彼女が、自身の体験にのみ基づいて、しかも完治したわけでない服薬中の状態で、「うつは『心の病』ではなく、『脳の病気』だ」。「うつの治療に欠かせないのは薬の効果です。」「専門である精神科に行ってください。」「薬はきちんと決められた量を一定期間服用することを、声を大にしてお伝えしたい」などと、諸手をあげて薬を礼賛するのはいかがなものか。この本は、製薬会社と精神科医にとって思わぬ援軍となったことだろう。
ミヤネ屋ではウィットに富んだ宮根とのやりとりが受けていた丸岡いずみだが、この本は200枚ほどの原稿枚数ほどの内容もないペラペラな駄本だった。

1793.jpg一方、ハウス加賀屋の統合失調症とのたたかいの半生を綴った後者は、なかなか読み応えがあった。ゴーストライターが書いたのではなく加賀屋本人が書いたのなら、なかなかの文才があると思って読んだが、後書きを見ると、加賀屋のメモを松本がまとめたものらしい。
私はお笑いには全く興味がなく、娘と生活していた頃はバラエティー番組に付き合って流行りの芸人くらいは知っていたが、90年代に活躍していた松本ハウスのことはほとんど知らない。去年、この本が出た時、統合失調症で10年間休んで復帰した芸人というのを聞いただけだった。
しかし、本書を読み始めると、最初から惹きつけられる何かを感じた。そして、加賀屋本人はご多分に漏れず「薬善説」を信じて疑っていないのだが、そのフィルターを外して読んでみると、実に興味深い真実が随所に隠されていることに気づかされる。
加賀屋自身は中学2年の時に突然、何の前触れもなく幻聴が聞こえるようになったと言っているが、本書を読むと、幼少期から家庭に問題があったことが述べられている。仕事人間で、仕事のストレスを妻にぶつけ、家中のものを壊す父親、夫から経済的に自立できないと諦めて、一人っ子の加賀屋に希望の全てを託し、彼を東大に入れるために小学生の頃から有名塾に通わせ、テレビも見せない母親。そして、そんな両親の顔色をうかがいつつ「石の仮面」を被って〝よい子〟を演じる加賀屋――。彼はそんな重圧に耐えきれず、5年生の時に仮面を脱ぎ捨てた。しかし、公立中学に進んでからも、彼には家庭にも学校にも居場所がなかった。そうした中で「臭い」という幻聴が聞こえるようになる。幻聴を幻聴と認識できぬまま、誰にも話すことなくそれを抱え込みつつ、意に反して進んだ高校でも幻聴は続き、そのうち幻視まで現れる。
この辺の経過は、幼少期の場面緘黙症、ひとりふたりの親友を除いて友だちができなかった中学生時代を経て、地獄のような高校生活で強度の強迫性障害に罹った私の体験と、どこか重なる部分があるような気がした。
加賀屋の幻覚の原因が本当に統合失調症であったのか、私には判断つきかねるが、とにかく彼は「思春期精神科クリニック」へ通い向精神薬の服用をするようになる。しかし、彼がここである意味救われたのは、グループホームへの入所を勧められたことだった。そこに彼はある種の〝居場所〟を初めて見つける。「グループホームに入ってから、幻聴や幻覚は出なくなった。」という点に注目する必要がある。服薬を始めて幻覚が消えたのではないのである。
だから、もしこの時点で服薬をやめていて、グループホームで本来の自分を探し、お笑いへの道を志すようになっていたなら、中学2年生からの幻聴・幻視は単なる思春期危機の文字通りの「エピソード」で終わり、彼は健康な人生を送っていたかもしれないなどと思ってみる。
しかし、現実には彼は、服薬を続けたまま芸人の道へ進む。それも「電波少年」の頃まではよかったが、「ボキャブラ天国」でブレークしてからは、仕事に追われ自身を見失うようになり、やがて「再発」する。
「再発」の原因は、私が思うには根本的には服薬だといっていいだろう。精神医学の常識に反して、統合失調症でも初回エピソード以来、服薬しないより服薬を続けた方がはるかに再発率が高いからだ。そして、加賀屋本人も述べているように、生活が不規則でハードになるにしたがい、自分の判断で薬を減らしたり逆に大量に飲んだりしたことが、再発への道に拍車を掛けたのだろう。ただでさえ脳内をぐちゃぐちゃにかき回す毒=向精神薬(抗精神病薬)を、恣意的にやめたり乱用したら、普通の生活を送っていてもその行き着く先は見えている。その結果、彼はよりリアルな幻視に悩まされ、大量服薬して自殺を企図するようになり、ついに休業、入院へと至る。
その入院した精神科病院が典型的な閉鎖病棟で、最初は「自傷他害の恐れあり」ということで監視カメラ付きで鉄格子の保護室に入れられる。そこで最初は強力なデポ剤(注射)を1日2、3度打たれ、それ以外にも大量の向精神薬を投与され、確かに飲んだか看護師によって入念にチェックされる。そうしたことに人権侵害とかいう意識の薄い加賀屋の叙述は、かえってリアルさに溢れている。
それでも幸い、彼は7ヶ月でそこを退院する。しかし、退院後も量は多少減ったとはいえ、依然大量の向精神薬の服用が続くので、読書以外ほとんど何もなすことなく瞬く間に実家で5年を送ることになる。でも彼の場合幸運だったのは、大塚製薬が開発したエビリファイがたまたま相性がよくて、薬を変えたら「劇的な変化」が現れて症状がよくなったということだろう。家族が「躁転した」と思うほど生気を取り戻し活動的になった彼は、アルバイトを始めてリハビリし、やがて芸能界復帰を果たすことになる。
しかし、彼は現在でもかなりの量の向精神薬の服用を続けている(本にはエビリファイ以外の薬品名や服用量は一切記されていないが)。そして、アルバイトを始めた頃から、顕著な認知障害が明らかになっている。これは明らかに薬の副作用だ。
加賀屋自身は、「薬善説」を信じているので、統合失調症の古くからの神話に沿って、「薬は一生飲まなければならないもの」。「寛解はしても完治はしないもの」と信じており、それゆえ、薬漬けの現在の状態にも症状が悪化しない限り満足している。
だが、十数年大量の向精神薬の毒にやられた脳と体は、認知障害や遅発性ジスキネジアにとどまらず、またいつ陽性症状が発症するか分からない。そのリスクを一生抱えて芸人生活を送るしかないのだ。私としては、あまり売れすぎず、適当に食っていけるだけ稼いで末永く活動して、心身に無理な負担がかかることのないように祈るだけだ。
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なおみ

こんにちわ

質問です。
遅発性ジスキネジアは、薬が体から抜けるにしたがって、治っていくんですか?
今現在、薬やめたくても、やめることが出来ずに、精神薬を飲んでいますが、先生に遅発性ジスキネジアを聞いたら、今飲んでいる薬は、関係ない薬と言われました。
20年前くらいから肩こりや歯が噛みしめるような口周りが力が入る変な感じがあって、その頃、もう名前は覚えていないのですが、精神科に通い薬を飲んでいました。
しばらく、顎関節症や、歯の噛み合わせが原因だと思い、歯の矯正治療や、マッサージをしても、ますますひどくなり、ボトックス注射の治療をして何回かうってやっと、楽になりますが、首に力がなくなります。しろで、しばらくすると、薬の効き目がきれてきてま、また、注射を打たなければならないのですが、1回では痛みや引きつりが楽にはなりません。保険適用ですが、注射代は高く、一生薬を打つことに不安を感じました。
今、精神薬を飲んでいることも、疑問に思っていますが、減薬がうまく出来ずに悩んでいる状態です。長く薬を飲んでいたせいか、慎重過ぎるくらいに調整しないと、すぐに、精神が不安定になってしまいます。心は嫌なのにどうしていいか、目的のための相談を出来る人がいない状態です。
歯の食いしばりや、首のひきつりや、肩こりには、気が滅入ります。何を信じたらいいか分からなくて、やめたいけど、薬を減薬するとはっきり不調が、脳に感じてしまうので、どうにもならないです。
なにか、知っている事がありましたら、アドバイスいただければ嬉しく思います。
by なおみ (2016-12-05 07:11) 

北野慶

コメントに気づかず、返事が大変遅くなりました。
あなたの飲んでいる薬が分からないので、なんともお答えできません。もし、あなたの遅発性ジスキネジアが薬によるものなら、薬をやめることにより症状が消えるとは思います。
どちらにお住まいか存じませんが、以下のサイトを参照され、お近くで「サードオピニオン」がある時、参加されてはいかがでしょうか?
http://alternativejapan.org(全国オルタナティブ協議会)
by 北野慶 (2017-06-12 08:37) 

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