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ロボット社会の到来とベーシックインカム・第2部③ー絶対的貧困と相対的貧困の接近 [Post capitalism]

グローバリゼーションが経済先進国の労働者を窮乏化させる
 一方、それと同時に、水野和夫が明らかにしたように、つまり、レーニンが古くは『帝国主義論』で言及した帝国主義列強と植民地との関係、そして、第二次世界大戦後の経済先進諸国の消費社会と経済成長を下支えしてきた旧植民地=低開発国や発展途上国からの安い原材料や低賃金労働力の供給構造が、ここにきて急速に行き詰まりを見せ始めた。1980年代以降、アジア諸国が急速な経済成長を始め、BRICSと経済先進諸国との経済格差が縮まると、今やアフリカ大陸が最後の草刈り場になっている。そして、アフリカ大陸全体が開発され尽くしたとき、経済先進地帯は成長の動力を完全に失うことになるだろう。
 さらに、前述したIT革命は世界の時間的・空間的スケールを縮め、グローバリゼーションを加速化した。すでに多国籍企業は20世紀後半から世界経済を支配し始めていたが、グローバリゼーションは経済の国境を融解させた。

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菊本義治・西山博幸・本田豊・山口雅生著『グローバル時代の日本経済』(桜井書店、2014年)図1-3より転載

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財務省「本邦対外資産負債残高」より作成


 前の図は世界の直接投資(FDI)を示しているが、1990年代後半以降急増している。図Ⅰ-6は日本の海外直接投資残高で、2015年現在150兆円を超えている。日本企業といっても、今や日本発の多国籍企業であり、その発展は日本の雇用増加をもたらすのでもなければ、収益の果実や税金がすべて日本国内に返ってくるわけでもない。

恋愛もできず、結婚もできず、子どもも作れない
 日本の7分の1の翻訳単価であった韓国の翻訳会社が日本市場に進出すると、韓国と日本の翻訳単価の平準化が起こり、必然的に日本の翻訳単価が急激に下落することになる。同じことが社会のあちこちの分野で起こり、経済先進諸国の労働者の窮乏化が急速に進展する。

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「朝日新聞」2016年6月25日夕刊より転載


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白河桃子「年収1000万円以上男の「結婚の条件」【1】(「PRESIDENT」2010年8月30日号)より転載

 今や日本でも韓国でも、労働者の4割前後を占める非正規雇用労働者の多くは、「恋愛もできず、結婚もできず、子どもも作れない」状況に置かれている。前の図は年収300万円未満の20代男性は、それ以上の収入の男性と比べて既婚率が極端に低く、反対に「交際経験なし」が極端に多いことを示している。また、下の図は20~40代未婚男性のうち、年収400万円未満の層が全体の84パーセント近くを占めていることを示している。マルクスは『賃労働と資本』のなかで、「労働力の生産費を総計すれば、労働力の生存=および繁殖費となる。この生存=および繁殖費の価格は労賃を形成する。こうして決定される労賃は労賃の最低限と呼ばれる。」(カール・マルクス著、『賃労働と資本』、1891、長谷部文雄訳、岩波文庫版)と述べているが、まさにこの「労賃の最低限」さえも満たさない低賃金レベルに置かれている無権利状態の労働者たちが、21世紀の経済先進国に増殖しつつあるのだ。
 資本の有機的構成が高度化しても、それをカバーしてあり余る経済の高度成長が労働力を吸収し労働者を豊かにしていた時代は終わり、今や労働者の掛け値なしの絶対的窮乏化が進行している。

絶対的貧困と相対的貧困の接近
 こうした過程は、前述した資本主義周縁部の消滅過程とともに、すでに進行しつつある。その結果、先進資本主義諸国では大衆消費社会は終わり、分厚い中間層はやせ細って貧富の格差が拡大した。先進国の労働者の賃金は途上国の労働者の賃金と平準化していき、仕事の絶対量も減少し続ける。それでも完全失業率が急上昇しないのは、フルタイムの正規雇用をパートタイムやアルバイトの非正規雇用で置き換えたり、ワークシェアリングなどによって見せかけの就業率を保っているからにほかならない。また、低下した賃金水準は労働者全体に及ばないよう、非正規雇用労働者や移民労働者、女性労働者等、弱い階層に押しつけることによって、彼らを「労賃の最低限」以下のレベルへ追いやり、相対的貧困問題を低開発国や途上国の絶対的貧困問題と質的にあまり変わりのない程度の生存権の問題にまで深刻化させる。
 経済先進諸国の格差の問題は、アメリカ、日本、韓国等、従来から社会福祉が貧弱だった国々でいっそう深刻であるが、前述した問題は北欧福祉国家でさえ免れ得ない。なぜなら、社会福祉政策はワークフェア(労働を条件として公的扶助を行うべきであるとする考え方)を原則とし、障がいや高齢によって働けない者以外には「働かざる者食うべからず」の不文律を前提としているからだ。

迫り来る資本主義の終焉
 資本主義は経済成長を前提としたシステムだが、経済先進地帯では、今や市場原理にまかせた自然な経済成長は望めなくなっている。また、たとえわずかな成長を達成したとしても、富はすべて1%の富裕層に集積し、99%の人々はますます貧しくなり、貯蓄はおろか、ムダな消費をする余裕すら失いつつある。
 上位1%に集中したお金は行き場所を失い、一部は金庫の中やメガバンクに退蔵したり企業の内部留保として留まり、残りはマネーゲームに投じられて実態のない金融経済が肥大化する。

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「しんぶん赤旗」2016年2月4日


赤字国債を乱発して財政出動し、公共投資を行っても、大部分が大手ゼネコンなど大企業の懐に消え内部留保をいっそう増やすだけで、一時的に失業率が緩和しても、決して経済の好循環をつくりだして経済成長に結びつけることはできない。資本主義は解決不可能なアポリアに陥っている。
 このまま今の経済システムを延命させたら、10年後、20年後の世界はどうなってしまうのだろうか?
 中国、インドを含めたアジア諸国はもちろん、アフリカ諸国もある程度の経済成長は達成するだろうが、貧富の格差はよりいっそう広がり、経済成長の恩恵を受けられる層はごく限られたものになるだろう。栄養失調や疾病による生死に関わる絶対的貧困は解消されるだろうが、代わりに深刻な相対的貧困問題に直面するようになるだろう。
 日本を含む経済先進諸国では、生産活動・経済活動のより多くの部分をロボット・コンピューター・AI等が担うようになり、街には膨大な数の失業者が溢れかえることになるだろう。一方、農漁村部ではそうした経済活動とは断絶し、ごく限られた地域で循環する自給自足型地域経済によって自然と共生する一群の人々が生活することになるかもしれない。
 いずれにしろ資本主義は破綻し、世界は混沌とした時代を迎えることになるだろう。

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リバタリアンの策略にはまらないように

ベーシックインカム導入に賛成です。

ですが、絶対に「国民皆保険」を崩してはいけません。
米国のように資本家と政府と医産複合体がコネと金で癒着し、医療費をバカみたいに吊り上げている事実を知ってください。

ベーシックインカムの導入後に、国民皆保険が廃止されると、ベーシックインカムがあるにもかかわらず、企業規制緩和によって、アメリカ国民のように医療費で多くの人たちが破産したり、医療費の支払いで生活苦に苦しむことになるでしょう。

(現在、日本人の2人に1人はガンで亡くなっています。彼らの治療費はまず払えなくなるでしょう。アメリカではガンが少なくなっていると報道されていますが、
 多くの人たちが医療費支払いを苦にして拳銃自殺をしています)

ベーシック・インカム導入の際には、必ず国民皆保険も守りましょう。

国民皆保険を「解体」するように仕向ける、誘導コメントは、新自由主義で法人税が下がり儲けだけが転がり込んでくるる企業経営側(実際米国では、保険会社、製薬会社そして病院に莫大な儲けが転がり込んでおり、患者が苦しんでいます)、もしくはリバタリアン資産家でしょう。
by リバタリアンの策略にはまらないように (2017-03-09 03:11) 

北野慶

私はベーシックインカム導入後も、医療費や教育費などは無料化されるべきだと思います。社会福祉切り捨てと「小さな政府」を目的とする新自由主義的BI論には反対です(給付額の少なさも含めて)。
by 北野慶 (2017-03-09 10:42) 

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