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打ちのめされた類家心平「RS5pb」 [Jazz]

IMG_3403.jpg正直いって、類家心平というトランペッターのアルバムを初めて聴いた。1976年生まれの43歳。決して若くはない。すでにプロのミュージシャンとして十数年の活動歴があり、かつてジャムバンドurbに属し、2009年には初リーダーアルバムも出している。
彼は、高校卒業後、自衛隊に入隊し、音楽隊として6年間勤務したという異質な経歴の持ち主でもある。
本作を聴いた後、過去のリーダーアルバムを3枚ほど聴いてみた。いずれも本作のタイトルにもなっているES5pbというギターを加えたクインテットのオリジナルメンバーの演奏だが、2011年のSector bは完全にアコースティックな演奏だったのに対し、次第にエレクトリックな要素が増してきている。
本作ではオープニングのCivetでいきなり打ちのめされた。ビートの利いたリズムに乗ってエフェクターを用いたトランペットを吹きまくる。田中“tak”拓也のファズの利いたギターがそれに続く。ローリングストーンズのカバー曲Lady Janeもミュートを用いたアコースティックのバラード演奏がなかなかいいが、とにかく最初のCivetで打ちのめされたまま、最後まで聴かせてしまうという構図だ。
たいした奴だと思う。

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快作2つ-Dan Rosenboom「Absurd in the Anthropocene」、Michelangelo Scandroglio「in The Eyes of The Whale」 [Jazz]

IMG_3369.jpgDan RosenboomAbsurd in the Anthropocene
ロサンゼルスで活躍する37歳のトランペッターDan Rosenboomの「Absurd in the Anthropocene」は、「Bitches Brew」で始まる1970年代前半のマイルス・デイビスの音楽世界を21世紀にバージョンアップしたような音を聴かせてくれる。音楽家・芸術家の両親の元で育ったDan Rosenboomは、一方で自らレーベルを立ち上げる実業家としての顔も持つそうだ。
このアルバムでは同じくロス出身のアルトサックス奏者Gavin Templetonが大きな役割を果たしている。彼の時にウエイン・ショーター、時にオーネット・コールマンを彷彿させるサックスプレイが、歯切れのいいDanのトランペットとのバトルを繰り広げる。
アルバム構成はブラスセクションの入る大がかりな構成の7曲目のApes in Raphureを中心に、ドラム、ベース、ギターそれぞれ複数のミュージシャンが各トラックに交代で参加し、多彩な演奏を繰り広げている。
アメリカ、ウエストコーストのLA Jazzの今を余すところなく伝えてくれる生きのいいアルバムだ。

IMG_3371.jpgMichelangelo Scandroglioin The Eyes of The Whale
Apple Musicを聴くようになってヨーロピアンジャズのアルバムを数多くダウンロードしてきたが、どういうわけかイタリアのミュージシャンのアルバムは多くない。
そんな中で、これはイタリアの若手ベーシストMichelangelo Scandroglioのファースト・リーダーアルバム。年齢等詳しい情報は得られなかったが、このアルバムで注目すべきは、彼のベーシストとしてよりもコンポーザーとしての才能だ。(わずかにベースソロが聴かれるのは6のみ)ひとことでいって、一度聴いてストンと落ちるまさにこれぞコンテンポラリージャズそのものといっていいセンスのいい音を醸し出している。ドラム、ピアノのリズムセクションはイタリア人だが、アルトサックスにLogan Richardson(1,2,6,7のみ)、トランペットにHermon Mehariというアメリカ人を迎えての演奏だ。(ギターはオーストラリア出身のPeter Wilson)とくにサックスのLogan Richardsonはこのブログでも「blues PEOPLE」というアルバムで紹介したことがある。このふたりの演奏がアルバム全体を引き立てている。
蛇足ながら、アルバムタイトルにちなんだのだろうが、ジャケットデザインはちょっといただけない。

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2019-私のベストアルバムRYMDEN『REFLECTIONS & ODYSSEYS』 [Jazz]

IMG_3340.jpge.s.t.のダン・ベルグルンド(b)とマグヌス・オストロム(ds)がノルウェーのピアニストのブッゲ・ヴェッセルトフトと組んだRYMDENのファーストアルバム。
2000年前後にe.s.t.がもてはやされた頃、私は1枚だけそのCDを買って聴いてみたことがあるのだが、当時、欧米の最新のジャズ情報といえばFMのジャズ番組か「スイングジャーナル」で仕入れるくらいで、普段は60~70年代の主流派やフュージョンばかり聴いていた私には、正直、e.s.t.の音楽は斬新過ぎて共感するところがほとんどなかった。(あるいは単に、エスビョルン・スヴェンソンが性に合わなかっただけかもしれないが…)
だが、ここ3年ほど音楽配信サービスで世界中の最新ジャズを聴くようになり、私の耳も肥えて、ようやく時代の最先端の音に慣れてきた。そんな今の私にとって、昨年聴いたジャズのベストアルバムといったら、絶対にこの作品をあげたい。
ピアニストのブッゲ・ヴェッセルトフトは1960年代から北欧ジャズをリードしてきたノルウェーの出身で、1980年代からヤン・ガルバレク、テリエ・リピダルなどと共演してきたという。
このグループ名RYMDENはスウェーデン語でスペース=宇宙を意味するそうで、ロケットを描いたカラフルなジャケットデザインもいい。
北欧ジャズの伝統とe.s.t.の継承-それは、イントロ的な1曲目のReflectionsを経て、ヴェッセルトフトの力強い同一旋律の繰り返しが印象的なアコースティックピアノで始まる2曲目のThe Odysseyから、質の高い演奏を繰り広げる。そして、短いベースソロの次の4曲目のPitter-Patterは打って変わってリズミカルなフェンダーローズのエレクトリックサウンドだ。
とりわけ私のお気に入りは、親しみやすいメロディーラインからなる7曲目のBergenだ。ヴェッセルトフトのアコースティックピアノにオストロムのドラミング、ベルグルンドのベースソロやアルコベースが絶妙なハーモニーを醸し出し、ラストにコーラスが加わりエンディングへ盛り立てる。
9曲目のRåkはオストロムのシンセドラムから始まり、ヴェッセルトフトのアコピからフェンダーローズへ移る最もエキサイティングな演奏。
最後はフォークっぽいスローな曲で終わる。
とにかく、何度聴いても飽きさせないアルバムだ。

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“アコーストリック”なJAZZ [Jazz]

IMG_3214.jpg★ファンタジックな爽快感★
PORTICO QUARTET Memory Streams
イギリスのPORTICO QUARTETのニューディスク。ハングドラムの幻想的ながらも単調な基調音に、力強いドラミングが時折アクセントを添え、叙情的だがメリハリの効いたサックスのメロディーが全編を漂うように流れ、功を奏している。北欧的な透明感溢れるリリカルな演奏は、ありきたりのUKジャズとはひと味もふた味も違うものがある。ハングドラムという楽器そのものもそうだが、アコースティックとエレクトリックなサウンドが渾然一体となって融合し、ノスタルジアを感じさせながらも近未来的なポストモダンジャズを具現しているなんとも形容し難いマジカルな音の世界に引き込まれる。

IMG_3213.jpg★キーボードの七変化★
Casimir Liberski Cosmic Liberty
Casimir Liberskiは10代からその才能が注目されたベルギー出身のピアニスト、キーボード奏者。2014年のベルギー映画「東京フィアンセ」の音楽も担当している。このアルバムはアメリカのドラマーMatt Garstkaとフランス出身のベーシストLouis de Mieulleとのトリオでニューヨークで録音された。
Casimir Liberskiはアコースティックピアノをはじめ、あらゆるキーボード楽器を駆使して、アコースティック、エレクトリック渾然一体の音楽世界を創り出している。アップテンポ基調の曲の中でも、6曲目のAzuwiの旋律が印象的。75分間、次から次へと楽器を代えていく変幻自在なキーボードの演奏は圧巻。

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73分に及ぶ演奏が飽きさせないーDEZOLVE「AREA」 [Jazz]

IMG_3109.jpgDEZOLVEAREA を聴いて思い出したのが、私がApple Musicを聴くようになって真っ先にダウンロードしたスウェーデンのドラマーJonathan Lundbergのリーダーアルバム「 Iterations」だった。当時それを聴いて、始めて出会うような新しい音の世界に新鮮な衝撃を受けた記憶がある。アルバム全体を貫くトーンも似ているが、なによりポリリズムやスリップビートを多用する山本真央樹のバークリー仕込みのドラミングがJonathan Lundbergを連想させたのかもしれない。調べてみると、ゲストに本田雅人を迎えている点も共通している。
Apple Musicのジャンリングの問題かもしれないが、アップされる日本のジャズアルバムの中にはジャズとはおよそ無縁の単なるインストゥルメンタルバンドじゃないの?と思うようなものが少なくない。そうではない純粋なJ ジャズでも、前にも述べたことがあるように、だいたい10秒聴けばJと分かる作品が大半だ。それはJジャズのよさとしての特徴ならば必ずしも悪いとは限らないが、私にはどうもそれがJジャズの〝ガラパゴス化〟としか思えないのだ。つまり、タコツボ化し、狭い日本にしか通用しないような音に自己満足しているような……。(それは何もJジャズだけの問題ではなく、Jポップにも共通している問題だが。)
そんな中、本作はJものとは露ほども感じさせないワールドワイドかつ斬新で洗練されたフュージョンミュージックの世界を展開している。前述した山本をはじめ4人のメンバーは皆23~26歳と若いが才能に溢れ、エレクトリックとアコースティックを巧妙に融合させたサウンドはハイレベルな調和を醸し出している。73分に及ぶ演奏がちっとも飽きさせず、かつ心地よい。
日本のフュージョンといえば高中正義やカシオペアの伝統を引きずったまま進化しないか、前述したようにジャジーな面をそぎ落とした単なるインストロメンタルミュージックに変質してしまったような演奏が大半である中、世界の最前線で通用するようなすごいスケールを持ったバンドが出現したものだと興奮させられた。

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朝いちで聴くJazz―ECMテイストなトランペットサウンド [Jazz]

IMG_3102.jpgジャズというとお酒を飲みながら夜聴く音楽―というイメージが強いが、ほぼ1日中ジャズを聴いている私にとって、それは当てはまらない。しかし、朝いちばんに聴けるジャズというのもなかなかないものだ。
そんななか、私が長年、朝いちばんに聴いてきたアルバムの第1位はなんといってもKenny Wheelerの「Gnu High」(ECM 1975年)だ。Kenny Wheelerの爽やかな響きのトランペットが紡ぎ出すメロディー(特にオープニングの軽快なHeyoke)は、朝いちばんに聴く音楽として最もふさわしい。


IMG_3105.jpgところで、ここ数ヶ月、朝いちばんに聴いているのが、同じECMから昨年出たオーストリアのギタリストWolfgang MuthspielのリーダーアルバムWhere The River Goesだ。ピアノにBrad Mehldau、ベースLarry Grenadier、ドラムEric HarlandのリズムセクションにトランペットのAmbrose Akinmusireが加わっている。アルバム名のとおり、清らかな川の流れのような清々しさを感じさせるアルバムに仕上がっており、朝いちサウンドにもってこいだ。最初は何気なくダウンロードしたのだが、朝いち音楽として聴き始めてはまってしまった。聴けば聴くほど味の出るアルバムだ。
IMG_3103.jpgECMでトランペットのリーダー作として同じような作品としては、Ralph AlessiがサックスのRavi Coltraneを迎えたImaginary Friendsがある。また、Ralph Alessiが参加しているドイツのピアニストFlorian WeberのリーダーアルバムLucent WatersもいかにもECMらしいアルバムだ。前者はスローテンポとアップテンポの曲をバランスよく取り混ぜた構成。また、後者のタイトル「Lucent Waters」は「Where The River Goes」のイメージにも通じる透明感あふれる作品で、スローで幻想的なトーンの曲中心に構成されている。
IMG_3104.jpgKenny Wheelerといえば、ECM作品ではないが、カナダの女性トランペッターIngrid JensenとサックスのSteve Treselerとのコ-リーダー作Invisible Sounds: For Kenny Wheelerは、2014年に亡くなったKenny Wheelerへのトリビュートアルバム。上述した作品らと比べるとアップテンポで躍動感あふれる曲が多いが、往年のKenny Wheelerを偲ばせる作品だ。

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パンソリはこんなにジャズだった!-Near East Quartet [Jazz]

IMG_3025.jpg今年創立50年目を迎えたECMから、韓国人のアルバムが初めてリリースされた。Near East Quartetというグループで、リーダーのソン・ソンジェ(サックス)はバークリー音楽大学で学び、同じボストンのニューイングランド音楽院に学んでいたチョン・スウク(ギター)と出会い、2009年にグループを結成、2015年に女性ドラマーのソ・スジンとボーカルのキム・ボリムが加入したという。

韓国と日本におけるジャズの受容
第2次大戦後、同じアメリカ軍の進駐を受けてジャズが流入した日本と韓国であったが、戦前からジャズを受容してきた日本では、戦後、一気にジャズ文化が開花し、ジャズ喫茶があちこちにできたり、渡辺貞夫や穐吉敏子のような世界的ミュージシャンを輩出してきたのとは対照的に、韓国ではジャズは大衆の中に根づかず、90年代前半に在韓経験のある私にとっても、この両国の違いはどこに根ざすものなのか、長年抱いてきた疑問点であった。同じ大衆音楽でも、両国は演歌からはじまり、JポップやKポップなど共通した音楽情緒基盤があるだけに、なぜジャズだけは例外なのか、いまだにその謎は解けていない。
しかし、その韓国でも、今世紀に入って、海外で本格的にジャズを学ぶミュージシャンが出てきて、ようやく大衆にジャズが音楽の一ジャンルとして受容されつつある感がある。

みごとECMサウンドに融合
本アルバムの最初の曲は、エレクトロニカルな曲調のギターとサックスの演奏だ。しかし、2曲目が始まると、女性のハスキーな独特の抑揚を持った韓国語の歌が聞こえてくる。何とパンソリではないか! しかも、バックの幻想的な演奏との違和感が全くない。70~80年代にヤン・ガルバレクが北欧のフォルクローレをジャズで叙情的に奏でたように、みごとECMサウンドと化している。
全8曲のうち、キム・ボリムのパンソリが5曲を占める。特にソン・ソンジェがバスクラリネットを吹いている3曲目の「パラム」は、ソ・スジンがマレットで太鼓(プッ)のようにドラムを叩き、最後にはキム・ボリムがチン(鉦)を叩くなど、最も韓国的趣向を凝らした演奏。
このアルバムでは全体にスローで幻想的な曲調が貫かれているので、キム・ボリムのパンソリも抑制的なものばかりだが、YouTubeで検索してみると、軽快な語り(アニリ)に乗せたけっこうハードな曲も聴かれ、それもなかなかいけている。
それにしても、韓国の伝統芸能であるパンソリが、これほどジャズであったとは驚きである。過去にサムルノリが日本のジャズミュージシャンと共演したこともあったが、意外性はその比ではない。そういえば、1993年に公開された韓国映画「西便制(ソピョンジェ)」で、最後に見せる主人公ソンファの歌唱とトンホの太鼓(プッ)の激しい掛け合いは、まさにジャムセッションそのものであった。



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Jジャズの牽引役 Ai Kuwabara the Project / To The End Of This World [Jazz]

ai.jpg桑原あいのザ・プロジェクト名義の初アルバムで、管楽器やストリングス、女性ボーカル、さらにはラップを起用し、従来のトリオプロジェクトの枠を打ち破って新境地へと誘う作品だ。トリオプロジェクトは事実上ベースの森田悠介とのコラボレーションで、ふたりのバトルが生み出す化学変化が聴きものだったが、本作ではより大きな編成の音楽に挑むことで、桑原自身の音楽性を大いに飛躍させ、ワールドワイドなジャズの世界を創り出すことに成功している。
Opening-1は桑原のソロで始まり、従来なら長いソロで終わるところだが、途中からベースとドラムが加わりゲストの武嶋聡のフルートのソロへと続く。トリオでは聴けなかった新たな世界へさっそく引き込まれていく。
次のMAMAはいきなりDaichi Yamamotoのラップから入り、後半、桑原のピアノがブラスとともにスリリングに絡む。
Mother Seaは従来のトリオ演奏を最も継承している演奏といっていいが、後半からストリングス、さらには吉田沙良のボーカルが加わり様相がドラマチックに一変、重厚な曲に仕上がっている。
次のThe Errorはカナダ出身のサックス奏者Ben Wendeをフィーチャーした曲で、桑原もオーソドックスなジャズピアノを披露。
When You Feel Sadは寺山修司の「悲しくなったときは」を英訳した詩を吉田沙良が歌う軽快な曲で、桑原は珍しくエレクトリックピアノを弾いている。
Improvisation XV -Hommage A Edith Piaf-はフランスの作曲家フランシス・プーランクの曲で、徳澤青弦カルテットを主体とした演奏。
Mariaはレナード・バーンスタイン&スティーヴン・ソンドハイムの曲で、桑原と徳澤青弦のチェロのデュオ演奏。
919は再び桑原のオリジナル曲でハードなトリオの演奏。(ちなみに、919というタイトルは安保関連法が成立した2015年9月19日を指すらしい。)
Love Me or Leave Meはジャズボーカルのスタンダードで、吉田沙良が歌い桑原はブルージーな演奏を聴かせる。
そして、最後のタイトル曲To The End Of This Worldは、スローなオリジナル曲で鳥越啓介のアコーステックベースを加えたトリオの演奏で幕を閉じる。
全体的に様々な編成、曲調からなるが、桑原節といってもいい彼女独特のピアノ演奏が全体を貫いており、それがより大きなスケール感を獲得したという印象を受ける。
ジャズがグローバル化し、イギリス、フランス、ドイツ、ポーランド、オーストラリア等々、参加ミュージシャン自体はボーダレス化しつつも各国でニュージャズが盛況な現在、正直日本では優れた才能は海外に流出し、Jジャズそのものはそれら諸外国のジャズシーンからは一歩遅れをとっている感が否めないと思う昨今だが、桑原あいとザ・プロジェクトこそ、これからのJジャズの牽引役としても期待されると思う。



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注目すべきアルゼンチンの実力派BERNARDO CASAGRANDEのアルバム(My favorite jazz) [Jazz]

bernardo.jpgBERNARDO CASAGRANDE QUINTETO + ORQUESTA COMUNION
アルゼンチンのラ・プラタを中心に活躍するBERNARDO CASAGRANDEは今年33歳になるサックス奏者。ギターを加えたカルテットにストリングス6とブラス4のオーケストラ+女性ボイスによるアルバムCOMUNIONは、聖体拝領(ミサ聖餐においてキリストの体となったとされるパンとぶどう酒を食すること)という意味。音楽に宗教臭は感じられないが、全体がひとつの組曲のような壮大な趣がある。オーケストラは控えめながら、女性ボイスとともに随所に効果的に使われ、サウンドに厚みを持たせている。ラテンテイストに貫かれながらも、独特の世界観=音楽観を紡ぎ出していて、何度聴いても飽きない。カルテットのメンバーも実力派揃いで、味のあるソロを聴かせてくれる。それらをバックに、テナー、アルト、ソプラノを自在に使い分けるBernardo Casagrandeのサックスが光る。けだし傑作!

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傑作、名作とは?ー最近ダウンロードしたアルバム(10) [Jazz]

Apple Musicを聴き始めてこのブログでレビューを書くようになり1年が経つ。ライブラリーもだいぶたまって、そろそろ★4つのアルバムのうち、あまり聴かないものは削除していこうかと思っている。一方で、★5つのアルバムの中には、何度となく聴いてきたものも少なくない。これらの中から、10年後もずっと聞き続けるアルバムが残るだろう。そうしたアルバムが何年経っても色褪せない、古さを感じさせない真の傑作、名作と呼ぶにふさわしのだろう。今回取り上げたマイルス・デイビスのライブも60年以上経つが、少しも古さを感じさせない。
毎週、Apple MusicのJazzカテゴリーには何十曲というニューアルバムがアップされるが、それらのうち私がダウンロードするのは1~2曲だ。基準は1に好みのジャンルで、2にその中でも私のツボにはまったもの、3に演奏と曲の質の高さ、4つめは斬新さやオリジナリティー、といったところだろうか。
TSUTAYAで借りるDVDの映画の中には、時に「お金と時間を返してくれ」と言いたくなるような高校・大学の映研レベルの作品に出くわすこともあるが、世界中から集められるApple MusicのJazzアルバムは、さすがにいちおうプロのレベルに達している作品ばかりだ。しかし、その中で、ダウンロードして繰り返し聴きたくなる作品はそうそうない。また、そう思ってダウンロードしてはみたものの、実際にはあまり聴かなかった作品、次第に忘れていった作品もある。そうして淘汰されて残ったものが、少なくとも私にとっての名作、傑作といえる作品なのだろう。

7.jpgLOGAN RICHARDSON blues PEOPLE ★★★★★ Logan Richardsonはミズーリ州カンザスシティー出身で37歳になるアルトサックス奏者。2ギターのクインテット編成で、メンバーはほかにJUSTUS WESTのELECTRIC GUITAR & VOCALS 、IGOR OSYPOVのELECTRIC & ACOUSTIC GUITARS 、DeANDRE MANNINGのELECTRIC BASS 、RYAN LEEのDRUMS。そのうちIGOR OSYPOVはウクライナ出身のギタリスト。アルバムの重厚なサウンドはクリスチャン・スコットのそれに通じるものがあるが、曲はより多様で幅が広い。タイトルにもあるようにブルージーな曲調は、ジャズの目指すべき方向のひとつの可能性を示しているようにも思われる。傑作といっていい。


4.jpgMiles Davis & John Coltrane The Final Tour ★★★★★ マイルス・デイビスクインテットによる1960年3月のパリとストックフォルムでのライブ音源。マイルスの第1期クインテットはすでにこの時期、解体・再編期に入っており、ピアノはレッド・ガーランドからウィントン・ケリーへ、ドラムはフィリー・ジョー・ジョーンズからジミー・コブへ代わっており、前年、「Giant Steps」を発表していたジョン・コルトレーンはこのツアーの後、ほどなくコンボを抜けている。そのコルトレーンが独自の奏法を確立していく途上にある演奏はすでに巨匠の片鱗を示しており、マイルスのリーダーアルバムなのに2人の名が冠された理由がよく分かる。220分にも及ぶので、私は同じ曲はベストのものだけダウンロードした。


5.jpgERIK FRIEDLANDER ARTEMISIA ★★★★★ Erik Friedlanderは今年57歳になるジャズチェリスト。父親は著名な写真家だったという。ジャズバイオリンはよく聴くが、チェロのジャズを聴くのは初めてだ。しかも、ピアノトリオをバックに、比較的オーソドックスなジャズを演奏している。時にピッチカートも駆使した演奏は、低音のバイオリンを聴いているような感じがする。このアルバムを聴いていると、弦楽器のジャズのソロ楽器としては、音域的にバイオリンよりもチェロの方が合っているのではないか、などと思う。


6.jpgDAVE LIEBMAN JOHN STOWELL PETITE FLEUR: THE MUSIC OF SIDNEY BECHET ★★★★☆ オープニングのPETITE FLEURを聞いて懐かしさを覚えた。幼い頃よく耳にした曲だ。アメリカのクラリネット、ソプラノサックス奏者シドニー・ベシェによって作られたこの曲は、1959年、ザ・ピーナッツのデビュー曲として「可愛い花」のタイトルで日本でも知られた。マイルスのグループに「オン・ザ・コーナー」(1972年)前後に在籍したマルチリード奏者Dave Liebman は現在71歳だが、最近はフリーっぽいジャズをやっているかと思ったら、これまた一転してしっとりとしたスタンダードジャズを聴かせてくれる。PETITE FLEURは最初のデュオ以外にも、中ほどにJohn Stowellのソロ、そして最後になんとDave Liebmanのピアノソロでも演奏されている。また、Dave Liebmanはこのピアノとサマー・タイムでのウッド・フルートの演奏を除いて、ソプラノサックスのみ吹いている。

8.jpgANDREAS VARADY THE QUEST ★★★★☆ ハンガリーのロマ民族出身のAndreas Varadyは20歳のギタリスト。ロサンゼルスで録音されたこのアルバムでは父親のOndrej Bandiがベースで、15歳の弟Adrianがドラムで参加している。ほかにアルトサックスのRadovan Tariskaはスロバキア出身、ピアノのBenito Gonzalezはベネズエラ出身。Andreasのギターはパット・メセニー的な現在の主流派ジャズギター奏法。アルバムはニュー・メインストリーム的に仕上がっている。Radovan Tariska のサックスが活きている。9のRadiskaはBenito Gonzalezのマッコイ・タイナー的演奏が聴け、アルバム一番の盛り上がりを見せる。


10.jpgSPIRIT FINGERS SPIRIT FINGERS ★★★★☆ Greg Speroのピアノ、フランス出身のHadrien Feraudのエレクトリック・ベース、Mike Michelleのドラム、イタリア出身のDario Chiazzolinoのギターからなるカルテットの演奏。注目はなんといってもHadrien Feraudのエレクトリック・ベース。随所で彼のソロが光っている。反対に、Greg Speroの単一和音を連打するピアノが、通奏低音的効果を狙ったのだろうが、私にはアルバム全体を単調なイメージにしているようで残念なところだ。


2.jpgDAN WEISS STAREBABY ★★★★☆ ニューヨークで活躍するDan Weissのドラムにエレクトリックベース、ギター、2台のピアノ&キーボードを加えた演奏は、ヘビメタにアバンギャルドジャズが融合したような独特の世界を創り出している。




3.jpgPOLYPLUS release ★★★★☆ POLYPLUSは様々なバンドで活躍する5人組のパンクジャズバンド。文字通りのフュージョンミュージックだ。特にTSUUJIIのサックスが炸裂する最初のlimiterがいい。




1.jpgCOHERENCE QUARTET SAGAYE ★★★★☆ サックスのŁukasz Kluczniak、ピアノのRobert Jarmuzek、ベースのMarcin Lamch、ドラムのMarcin Lamchはともに30〜40代のポーランドのミュージシャン。ECMテーストの良質で伝統的なヨーロッパジャズを聴かせてくれる。


9.jpgNubya Garcia When We Are ★★★★☆ Nubya Garciaはカリブ海出身の両親の元に生まれたイギリスの20代女性テナーサックス奏者。カルテットによるロンドン録音のEP盤。後半2曲は前半2曲のリミックス。Nubya Garciaのサックスは確実性があり、曲はコンテンポラリーなジャズに仕上がっている。



「最近ダウンロードしたアルバム」はいちおう今回で終了します。今後はダウンロードしたアルバムの中から、「これは傑作!感動した!」と思った作品のみ、随時取り上げていこうと思っています。


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