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死の淵から奇跡の再生 [Novel]

僕の名前はセキセイインコのミウ。みんなミウ君って言うよ。5年半前、生まれて2週間の時、クリスちゃんといっしょにこの家に来た。
クリスちゃんは賢くて好奇心旺盛で、ちょっぴり意地悪で力持ちで、そのうえプライドも高くて、何もかも僕と正反対の鳥だった。子どもの頃、クリスちゃんにいじめられて羽から血を出し、獣医さんに連れて行かれたことがあったけど、僕はクリスちゃんが大好きで、いつもクリスちゃんのまねっこばかりしていた。

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そんなクリスちゃんは、2歳半の時、自由を求めて自らカゴの隙間から抜け出し、大空に旅立っていった。それ以来、僕はひとりぼっちになってしまったが、僕はクリスちゃんみたいにこのカゴから逃げようなんて思わなかった。なぜなら、弱虫の僕には、カゴは外敵から身を守ってくれる大事な場所だからだ。だから、クリスちゃんがいなくなってから、パパはいつもカゴの出入り口を開けっ放しにしてくれているけれど、僕は気が向かなきゃめったに外へ出ない。たまにパパが出口を閉め忘れたままベランダに出しても、僕は外へ出なかった。
それなのに、カゴは僕を守ってくれなかった。

今からひと月前、五月晴れのさわやかな日だった。いつものようにベランダでいい気持ちで毛繕いをしていると、突然空が暗くなり、何かがカゴの上を覆った。僕はびっくりしたけど、慌てることなく見上げると、僕の何十倍もあろうかという真っ黒なカラスだった。大きいことは大きいけれど、うちの人たちと比べれば小さいものだ。だから僕は、全然怖いと思わなかった。
「遊ぼ!」とカラスが低い声で言った。
それで僕は、
「いいよ。何して遊ぶ?」って、カゴの天井に飛びついた瞬間だった。
僕の体ほどあるカラスのくちばしがいきなり僕の両足に噛みついて、猛烈な勢いで引っ張った。
「ギャ!」大声を上げたのは覚えているけど、その後どうなったのか全く分からない。気がつくと、僕はカゴの底に投げ出され、カラスの姿はいつの間にか消えていた。僕は止まり木に飛び移ろうとしたけど、体が動かない。そして、足のあたりが猛烈に痛かった。まわりを見ると、真っ赤な血がたくさん飛び散っていた。僕は気が遠くなり、そのままうとうとしてしまった。
どれほど時間がたったろう。ベランダのガラス戸の開く音がして、
「わあ! ママ、ミウ君が大変だ!」と叫ぶパパの声がした。
それから、僕はカゴごと部屋の中に移され、パパとママが慌てた声で話していた。
「今日は休日だから、どこの病院もやってないだろう。」
「インターネットで調べて電話してみたら。」
さらにしばらくして、
「近くの病院はどこもやってないよ。隣の町の獣医さんで、鳥は見ていないと言うので、事情を話したら、連れておいでと言ってる所があるにはあるけど…」
「じゃ、すぐタクシーでそこに行こうよう。」
それで僕は、このうちに来る時クリスちゃんと入れられてきたワラで編んだ丸い小さな箱に入れられて、車で隣町の動物病院へ向かった。
めがねを掛けた男の獣医さんは、僕をつかんでひっくり返してあちこちいじった後、こう言った。
「右足が根本から完全になくなってますね。左足もすねのあたりで折れていて、放っておくと自然に取れてしまうかもしれません。よほどの覚悟を決めて面倒を見るか、安楽死させるか、よくご相談ください。」
僕はまた箱に戻され部屋を出た。そのうち、お姉ちゃんが息せき切ってやってきた。パパが、さっき獣医さんの言ったことをお姉ちゃんに繰り返すと、お姉ちゃんは、
「私だったら生きたい。」と、泣きそうな声で言った。
「分かった。」そう言ってパパは、僕を連れてまた獣医さんの所へ連れて行った。
「分かりました。」と獣医さんは言い、また僕をつかんで薬を飲ませた。
「明後日、また連れてきてください。それまで、タオルのような柔らかいものの上に置いてやってください。」
家に帰ると、パパが水とエサをくれた。あの時から何も口にしていなかったので、僕は夢中になって水を飲み、エサを食べた。足は痛かったけど、ものすごく食欲はあった。

受傷後.JPG


2日後、パパが僕を獣医さんに連れて行こうと、また小さなワラの箱に入れようとしていたら、ママが、
「小鳥を見てくれる病院に連れて行った方がいいんじゃない。」と言った。それでパパは、僕を抱えて、歩いて行ける近くの病院へ連れて行った。
そこの病院の先生は、まだ若い女の先生だった。
「こんなひどい傷を負った小鳥を見るのは初めてです。」と言って、僕をパパから引き離して別の部屋へ連れて行き、僕を縛り付けて何かしたり、体中をあちこち触った。そして、またパパの所へ連れて行ってこう言った。
「人間で言うと、膝の下の部分で複雑骨折してますね。今手術をすれば直る可能性があります。そして、神経がつながっていれば、指が自由に動くようになり、片足で木に止まることもできるようになるかもしれません。でも、やってみないと分かりません。」
「よくなる可能性があるなら、手術してください。お願いします。」すぐにパパが答えた。
それで僕は即入院ということになり、別の女の先生が手術してくれた。折れたところに金属の細い棒を入れたのだそうだ。痛くはなかったけれど、その間身動きできず、とてもつらかった。
それから僕は、2日間病院の小さなケースの中で過ごした。パパやお姉ちゃん、ママがお見舞いに来てくれたけれど、帰ることはできなかった。
3日目に、やっと僕は家に帰れた。残された片足には、包帯とテープがぐるぐる巻かれていた。僕は、昔カメちゃんたちが入っていた小さな水槽の中に入れられた。そこで2週間ほど、痛い足を引きずりながら動いたり、エサを食べるだけの生活を送った。朝晩、パパが僕をつかんで薬を飲ませた。それが嫌で、僕は「ビー、ビー」と鳴いた。でも、その後で、パパやお姉ちゃんが僕の頭や首をなでてくれるので、僕はうっとり目を閉じ、なされるに任せる。あれ以来、パパやお姉ちゃんのこれが、僕の唯一の幸せなひと時だ。
あの時から、この「ビー、ビー」という声を出す以外、僕は鳴くことを忘れてしまった。鳴く元気もなかったし、カラスに襲われた時のショックから、声も出なくなっていたのだ。
それでも、2週間ほどすると痛みもとれ、水槽暮らしが窮屈になってきた。それで、僕がバタバタ暴れるので、パパは膝掛けを床に広げ、その上に僕を置くようにしてくれた。僕はその上で、足を引きずりながらくちばしと羽を使って動き回ることを覚え、そのうち不自由な足も少しずつ使えるようになっていった。
退院してからも、2、3日おきに、パパは僕を病院へ連れて行った。先生はいつも、「よくなってますよ。」と言うが、そのたびに足の包帯を交換するため僕をつかむので、僕はその間中、「ビー、ビー」鳴き続けた。でも、いつだったか、病院へ行く途中、空の方で、小鳥のさえずりが聞こえるので、僕は思わず「ピー」と小さな声で鳴いた。そしたら、パパがとても喜んでいた。
最初、風切り羽も抜けてしまい、飛ぼうとしてもうまく飛べなかったが、3週間くらいたつと、部屋の中を飛び回って、パパやママを慌てさせた。飛ぶのはいいけど、足が使えないから、どこかに止まろうとしても止まれず、最初は墜落してしまったからだ。



ちょうど1ヶ月がたち、いよいよ足に埋め込まれたピンを抜く日が来た。すでに3日ほど前から包帯はとれていた。僕が口でつついてとってしまうので、先生が「もういいでしょう」と、外してくれたのだ。で、その時以来、僕の足の指がかなり自由に動くようになり、ものをつかむこともできるようになった。それで、いよいよあちこち歩いたり飛び回れるようになった。
ピンはあっという間に抜けた。見たら3センチほどあった。あれが足の中に入っていたのかと思うと、なんだか気持ち悪くて、僕は思わずくちばしで足を触ってみた。
「ピンを抜いたので、また骨が折れてしまう可能性があります。その時は、再手術をしてピンを埋め込み、今度は抜かずに、ずっとそのままにすることになります。なので、2、3日は安静にしてください。その後は、むしろ足を動かして“リハビリ”した方がいいでしょう。」と先生が言った。
それで、家に帰ると、僕は底を外したカゴに3日間入れられた。でも、そうしている間に、昔のことを思いだし、「ギャー」と鳴いたり、大きな声で「ピヨ」と言ったり、気持ちがいいと「~.@?:*;~」とうまく表現できない声でさえずったりできるようになった。そして、薬の時間には、パパの目を盗んで部屋を飛び回っても、くちばしと足を使ってどこかに止まることもできるようになった。
4日目、いよいよカゴの扉が開かれ、自由に部屋の中を動けるようになった。僕の生活は、すっかり元のペースに戻ったも同然だ。もちろん、あの危ないベランダには出られないけれど……。
その日の晩、薬をもらって、いつも寝る部屋に連れて行かれ、カゴの扉も閉められてからのことだった。僕は、いつも寝る時に、ブランコに止まって寝ていたことを思い出した。見上げると、ブランコがあった。僕は、思い切り飛び跳ねて、くちばしと足で何とかブランコにつかまることができた。そうしていると、ブランコについている鈴の音を聞きつけたパパがやってきた。
「ミウ君! どうやってそこに登ったの! すごいね!」そう言ってパパはカメラを持ってきて僕を撮った。
その時の映像が、これだ!
[1][2][3][次項有]



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