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「Dr.倫太郎」の診察を受けられるのはセレブな人だけ、という現実 [Anti-psychotropic drugs]

Dr.倫太郎について過去4回言及してきたが、大事なことをひとつ見落としていた。
それは、このドラマの原作(といっても放送開始の前月に無名作家による小説として出版されたので、このドラマのために書かれたオリジナルシナリオのようなもの)では、倫太郎が「アメリカ帰りでセレブ専門、メディアでも活躍の精神科医」という設定である点だ。確かに現役閣僚の主治医であったり、第1回ではテレビ出演、ベストセラーの著者といった側面も描かれていたが、脚本の中園ミホはこの「セレブ専門」というところを曖昧にして、逆に生物学的精神医学の代表として宮川教授を引き立てることで暗に薬物療法中心の現在の日本の精神医療を批判的に扱い、このドラマを「社会派ドラマ」仕立てにすることに成功したのだと思う。
seisinaki.jpgしかし、原作の「アメリカ帰りのセレブ専門」という設定は極めて重要だ。何故なら、倫太郎のような精神分析(自己心理学)による治療を行おうとしたら、日本では保険適用を受けられない。2010年の診療報酬改定でうつ病等への認知療法・認知行動療法が適用になったが、それも精神保健指定医による場合500点、それ以外の医師の場合420点を30分を超える診療を行った時にのみ与えられるに過ぎない。前回述べたように、「調子はどうですか?」「よく眠れていますか?」「気分の落ち込みはありませんか?」等の「診療」を行い、「では、お薬を出しておきましょうね」で5分以上診れば、「通院精神療法」として診療報酬が30分未満で330点、30分以上で400点稼げるのだから(しかも認知療法・認知行動療法を行った場合、「通院精神療法」の報酬もその中に含まれる)、30分以上かけて認知療法・認知行動療法を行うより(だいたい1万人以上いる日本の精神科医の中で、薬を出すこと以外に何かできる医者はどれだけいるのか?)、30分に5、6人の患者を診て薬を適当に出したほうがよっぽど稼げる(薬を出せば処方料、処方せん料で更に100点以上稼げる)。
したがって、認知療法でも認知行動療法でもない精神分析(自己心理学)で1人50分の診察を行おうとしたら、当然自費診療とならざるを得ない。そして、原作者の清心海(せいしんかい・ペンネーム)氏は「雑誌記者を経て精神科医(せいしんかい)に。現在は都内で自費診療のカウンセリング・オフィスを開業」とある。
私はさいたま市内の心療内科に通い始めた時、カウンセリングを希望したが、臨床心理士の資格があるのかどうかも疑わしいカウンセラーの名ばかりカウンセリングを4回ほど受けた後、薬のみの診療となった。しかし、全くよくならないので3年ほど後にネットで見つけた「精神分析」を謳う都内の精神科へ転院したが、「ちゃんとした精神分析を行うには10万円以上かかる」と言われて断念したことがある。その医師は、その時点で私が薬物依存・中毒になっていることを知っていただろうが、私が当時飲んでいた3種類の薬(抗うつ薬・抗不安薬・抗精神病薬)をやめるとしたらどの順番かと尋ねると、「抗精神病薬→抗不安薬→抗うつ薬」と答えただけで、その後も漫然と薬を出し続け、「では徐々にお薬を減らしていきましょう」などとはついに言わなかった。
私はそんな自身の服薬体験も述べた『のむな、危険-抗うつ薬・睡眠薬・安定剤・抗精神病薬の罠』で、向精神薬に頼らずに心の病の治療を行っている医療機関をいくつか紹介したが、心理療法であれ、栄養療法であれ、漢方療法であれ、基本的に保険は適用されないので、経済的に余裕のある人でないとなかなか行きづらい。中には、初診で6万円とかそれ以上かかるところもあると聞いた。
かくして、保険で間に合わそうという庶民は、薬を出すことしか知らない街中の精神科・心療内科クリニックへ今日も列をなして入っていくというわけだ。そして、その罠に気づいて薬をやめようとしても、上述したような代替医療を行う機関で高額な医療費を負担して比較的楽にやめるか、でなければ死ぬ苦しみを味わいながら自己流で断薬するしかない。
また、自費診療で精神療法を受けようとしても、上から目線で患者の心をコントロールするのでなく、倫太郎のように患者の心と向き合って患者と共感しながら治療していく精神科医に出会える確率が、果たしてどれだけあるだろうか? というか、そんな精神科医、この日本にいるだろうか?



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てまり

はじめまして。
いつも参考にさせていただいています。

アメリカの精神科医ブライアンLワイスさんの本もおもしろいです。
実際、その方法を勉強した方にやっていただいて、私はパニックをなくすことができました。
さまざまな療法が、患者さんの好みで選べるといいですね。

北野さんのドラマの感想やまとめはとてもわかりやすくてありがたいです。
またうかがいます。ありがとうございます。

by てまり (2015-05-14 12:38) 

北野慶

コメント、ありがとうございます。
Dr.倫太郎はいつも興味深く視聴しています。
批判的な意見もあるようですが、私はいろいろ考えさせられるし、また、精神医療に日頃関心のない視聴者にも日本の精神医療の現状を考えるきっかけになってほしいと、ブログを書き続けています。
これからも、感じたこと、思ったことを書いていくつもりです。
by 北野慶 (2015-05-14 21:15) 

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