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韓国・城南市「若者配当」、「地獄社会」の一縷の望みだろうか(解説付き) [Basic income]

ホン・ミンチョル記者plusjr0512@vop.co.kr「民衆の声」2015-10-05

城南(ソンナム)市が「若者配当」政策を推進する。城南に居住する19~24歳の若者に年間100万ウォンの支援金を支給するもの。しかも、「若者支援金」、「若者補助金」でなく、聞き慣れない「若者配当」だ。
城南市はなぜ若者に支給する補助金に「配当」という名をつけたのだろうか。「若者配当」という名前には「政府3.0」や「創造経済」等の正体不明な造語以上の意味が含まれている。

なぜ若者補助金でなく配当なのか?
配当というのは一般的に企業が営業活動により発生した利益のうち、一部を株主に分けることをいう。株式を買って会社に投資した者が当然享受すべき権利がまさに配当だ。半面、補助金や支援金は享受すべき権利というよりは、社会的弱者を政府や社会が助けるという支援の認識が背後にある。
城南市が今回の政策の名前を「若者補助金」でなく「若者配当」と決めた理由は、若者が市から支援を受けるのではなく、当然の権利を求めるという意志が含まれていると解釈することができる。
城南市の若者配当政策の土台はベーシックインカムの概念だ。ベーシックインカムを主張する人々は、ある社会が所有する公共資産から発生した利益をその社会構成員が分け合う権利があると考える。20歳を過ぎれば誰にでも投票権が与えられるように、その社会構成員ならば裕福でも貧しくても(普遍性)、結婚しようがしまいが(個別性)、仕事をしようが勉強をしようが、いかなる条件もなしに(無条件性)ベーシックインカムの支給を受ける権利を有するという認識だ。投票権が政治的基本権ならば、ベーシックインカムは経済的基本権でなければならないという主張だ。
ベーシックインカムが基本権だという主張は、多少馴染みが薄いものに聞こえるが、実際は私たちにもなじみ深い政策だ。ベーシックインカムの概念を基に導入された最初の政策は、まさに朴槿恵大統領が大統領候補の時期の公約だった基礎年金だ。当時、朴槿恵候補は65歳以上の全国民(個別性)に[社会的]寄与と所得に関係なく(普遍性)すべて(無条件性)20万ウォン支給すると公約した。

ポピュリズムと若者配当、金持ちはなぜ受け取らなければならないか
「老人ベーシックインカム」に見ることができる朴槿恵大統領の基礎年金は、政策推進過程で事実上補助金に変質した。ベーシックインカムの核心である普遍性が所得により(所得下位70%まで)、国民年金と連係して支給する方式に変わったためだ。基礎年金がこのようなことになった理由は、皆が知っているように予算の制約のためだ。
予算の制約は無償給食や無償保育と同じ普遍的福祉の施行段階のたびに、政治的には「ポピュリズム」議論を、経済的には福祉の効率性の議論を呼び起こしてきた。ない人々により集中的な支援をすることが効率的であるが、高所得者にまで支援の範囲を広げることで、政治家自身の立場を強化するために不必要な予算を浪費するという批判だ。
だが、ベーシックインカムに賛成する代表的経済学者であるカン・ナムン韓神(ハンシン)大学経済学科教授は、「金持ちにまでベーシックインカムを与えることになれば、貧しい人にさらに利益になる」と主張する。「再分配の逆説」という概念によれば、貧しい階層にのみ福祉を施すほど貧しい人が受ける金額は減り、中産層を含めて普遍的に福祉を施す方が貧しい人が受ける金額が増える現象が発生するというのだ。
カン教授は「再分配の逆説現象が生じる理由は、中産層を含む普遍的福祉を実施すれば、中産層が増税に賛成して福祉規模が増え、選別福祉を実施すれば中産層が増税に反対して福祉規模が小さくなるため」と説明する。
カン・ナムン教授のこのような説明には、「増税を通した福祉拡大」が前提になっている。現在実施されている選別的福祉システムである社会保障の拡大でも、ベーシックインカムの実施でも、増税は避けられない課題であり、増税を通した福祉拡大のためには高所得層はもちろん中産層にも恩恵を与えることによって、社会的合意をより簡単に引き出すべきだという主張だ。

城南市予算、最初の若者ベーシックインカム政策を実施するほど充分なのか?
ベーシックインカムの普遍性が福祉拡大に有利だという主張の賛否を離れて、予算不足は相変わらずベーシックインカム政策実施の大きな障害物だ。城南市の若者配当も、やはり予算の制約は今後政策の持続可能性という面で負担になる可能性が高い。
城南市は19歳から24歳までの年齢層に年間100万ウォン[約10万円]ずつ支援するという。施行初年度である2016年には24歳である11,300人が配当を受けることになる。必要とされる予算は113億ウォンほど。城南市は「施行初年度予算は増税なしに脱税を防止して節約した金とすること」としながら、「すでに予算チームと協議を終えた状態」というが、対象が次第に拡大する場合の財源調達策は具体的に明らかにしていない。
来年は若者配当予算が城南市の1年の福祉予算5587億ウォン(2015年)の2%に過ぎないが、もし対象年齢すべてに配当政策が広がる場合、予算は年間約600億ウォンに達する。これは自然増加分を勘案しても、城南市の全福祉予算の10%に迫る見通しだ。城南市が財政健全化と自立の部分で優秀な地方自治体であることを勘案しても、事業性予算だけで若者配当政策を拡大するには負担が大きいのが事実だ。
市はこうした財政負担を、政策拡大を通して解決していくことを提案した。イ・ジェミョン城南市長は「予算は常に足りず、制限された予算をどこに投じるのかは、結局哲学と意志の問題」として、若者配当事業を政府の政策として採用することを提案した。政府政策に採用されれば関連法律によって財源が一般会計に編入され、城南市の予算負担を減らすことが可能になるためだ。もし若者配当政策が効果を上げて、市民に支持されて持続的に広がる場合、政界と政府にも圧力になるりうるのではないかというわけだ。

なぜ「若者」配当か?
城南市の若者配当が発表されると直ちに、「子どもの酒代でも与えるというのか」という反発が起きた。若者層に必要な政策は失業対策であって所得保障ではないという主張だ。だが、本当にそうなのか。
現在の韓国の福祉制度は生涯周期別に見ると、若者層の福祉が最も不十分だ。子どもは出産手当て、養育手当て、保育園・幼稚園支援等の無償保育を受けている。小・中・高校生になれば無償給食を支援される。高齢者になれば基礎年金が支給される。だが、若者にはこのような所得保障政策が非常に制限的だ。福祉の世代間公平性が保障されていない。若者配当政策はこうした現実に問題を提起している。
これに反して、若者の問題はますます深刻化している。2015年現在、全人口の実質的失業率は10.1%であるが、若年層の実質的失業率は22.4%に達した。若者の就業者の3分の2は非正規雇用で、韓国の大学生は世界で最も高い授業料を払っている。そのため、2013年現在、大学生10人中6人が1,500万ウォン以上の借金を背負っている。首都圏の若者の住居貧困率は全人口の住居貧困率よりはるかに高い。
イ・ジェミョン城南市長は、最近あるラジオ番組のインタビューで、「このように困難な状況に置かれている若者世代に私たちの社会は果たしていかなる配慮をしているか」と問うた。イ市長は基礎年金を例にあげて、「基礎年金が社会への寄与に対する後配当と理解すれば、若者が今現在の非常に危険で非正常な状況に打ち勝てるように先行投資をしようということ。若者の力量を強化して、私たちの次の未来世代に投資し、私たちの世代を扶養することができるようにする力量を育てようということ」であると強調した。
[中略]

新しいパラダイムへの道は遠い
城南市の若者配当政策はベーシックインカム概念の適用という新しい福祉パラダイムと、今まで福祉政策で疎外されていた若者を最初に地方自治体レベルで支援するという点で格別な意味を持つ。同時に四半期別25万ウォン、年100万ウォンという金額が若者の生活を画期的に高めることはできないという限界も明らかだ。城南市という地方自治体の財源が限定されているという点は、政策の持続可能性にも疑問が提起される。今後、新しい福祉パラダイムが確固たる地位を占めるためには道が遠い。
[以下略]

解説
9月30日に本ブログで紹介した「韓国城南市「若者手当」導入本格推進-四半期別25万ウォン[年約10万円]」の続報だ。
城南市はソウル市の南にある人口約100万の都市。弁護士出身のイ・ジェミョン市長(50)は2010年に城南市長に初当選、昨年、野党・新政治民主連合の候補として再選を果たした。
本文を読んでも分かるように、韓国ではベーシックインカム=基本所得という概念を、日本や欧米などよりかなり広い意味で用いている。日本でいえば年金、児童手当、失業保険のような各種社会保障に該当するものでも、「全国民(個別性)に[社会的]寄与と所得に関係なく(普遍性)すべて(無条件性)」の人に支給されるものは基本所得ととらえる考え方である。
こうした考え方は、ヨーロッパの福祉国家はもちろん、「中福祉、中負担」の日本の社会保障とも異なり、「低福祉、低負担」の韓国の社会保障制度の現実抜きには理解しにくい。
日本の社会保障制度は戦後、1960年代から70年代にかけて整備された。(健康保険制度と年金制度は1961年、失業保険制度は1974年)それに対して、韓国でそれらの社会保障制度が整備されたのは、国民年金制度が1988年、国民皆保険制度は1989年、雇用保険制度は1995年である。しかも、本文でも触れられているように、例えば基礎年金は20万ウォン[約2万円]と極めて低い。
こうした制度は、いわゆる「漢江の奇跡」と呼ばれた高度成長を遂げて先進国の仲間入りをする過程で整備されたものだが、それからほどなく発生したアジア経済危機(1997年)を経て、韓国も日本同様、新自由主義経済の嵐が吹き荒れ、貧富の格差のいっそうの拡大、貧困層の増大を招いている。
では、それ以前の韓国はどのように低所得者層を社会が支えてきたのかといえば、高度成長期とそれ以前の日本同様、社会保障の不在または不備を家族福祉が担ってきたのである。日韓に限らず、アジア諸国に現在も広く見られるように、社会保障、社会福祉の脆弱な社会は、家族福祉がそれを補完する。
しかし、日本同様、ここ20年前後、新自由主義の行きすぎた競争原理は、そうした家族主義をも破壊し、現在の韓国は日本と合わせ鏡のような1%対99%の極端な階級社会を招来することになった。
こうした中、今、城南市の「若者配当」という名のある種の広い意味での基本所得=ベーシックインカムが、韓国社会の注目を集めている。
本文でわれわれがいちばん注目するのは、カン・ナムン教授の「再分配の逆説」、つまり「貧しい階層にのみ福祉を施すほど貧しい人が受ける金額は減り、中産層を含めて普遍的に福祉を施す方が貧しい人が受ける金額が増える現象が発生する」という主張であり、これこそベーシックインカムの概念の神髄といってもいい。
なぜ注目するのかといえば、現在の日本の社会保障政策は、まさにこれと真逆のことをやっているからである。バブル崩壊以降中間層がやせ細った日本社会は、1%の側も99%の側もあらゆる面で余裕を失い、戦後の社会保障政策(のみならず経済政策そのもの)に失敗した政府は、「社会保障費に充てるため」と称して消費税を引き上げながら、生活保護費を削減したり、労働者派遣法を改悪するなど、大企業に有利な労働法制を次々と導入し、一方で法人税を引き下げて社会の格差をますます広げている。挙げ句の果てに、消費税再引き上げ時の軽減税率を所得制限付きで事後給付するなどというとんでもない案を提示してきている。そこには「上が潤えばそのおこぼれがそのうち下にもいく」という国民をバカにしきった「トリクルダウン」の言葉遊びしかない。
仮に消費税をこれ以上引き上げるとしても、その際には食料品に限らず、生活必需品は最高でも5%以下に引き下げる軽減税率を無条件で導入するのが、本来の姿であろう。
まさにカン教授が指摘するとおり、「貧しい階層にのみ福祉を施すほど貧しい人が受ける金額が減」っているのが今の日本の現状である。
だから、日本では地方自治体レベルでも、城南市のような大胆な政策が発案されない。せいぜい地域貨幣を発行して地域経済の活性化を図ろうというレベルの発想である。
韓国でできることならば、日本ではもっと本格的なベーシックインカムを基礎自治体レベルで実行することが可能だろう。イ市長が言うように「制限された予算をどこに投じるのかは、結局哲学と意志の問題」なのだ。

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