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いじめ―ムラ社会と市民社会の間 [Criticism]

私はこの夏、某全国紙に次のような投稿をしたことがある。
幼稚園から中学校にかけていじめを受けたことがある。といってもちょっと意地悪されたくらいだった。
それに比べ、今のいじめは立派な犯罪行為だ。恐喝、暴行、傷害、パワハラ……。しかも、学校の先生は頼りにならない。同級生も見て見ぬふりだ。
そこで、追い詰められた君に一発逆転の解決策を教えよう。もし、かつあげや暴行を受けたら、携帯電話などですぐ110番に通報するのだ。けがをしたときも、たいしたことがなくても119番通報するのだ。
いじめた本人も学校も、表沙汰になるのを何より恐れているから、これは絶対にきく。110番に通報を受けたら警察も出動せざるを得ないし、救急隊員も事件性を感じたら警察に知らせてくれるはずだ。
警察に聞かれたら、洗いざらい真実を話すことだ。君は逃げる必要はない。ただ、携帯電話をダイヤルする勇気を振り絞るだけでいいのだ。
1106216546.jpg『いじめ加害者を厳罰にせよ』(内藤朝雄著、ベスト新書)を目にした時、思わず手を伸ばした。
そして、本書を読み始めてすぐに、次のような記述に出会い、はっとさせられた。
役人が便宣上引いた学区というエリアの中にある学校に、それまでほとんど縁がなかった子どもたちが義務教育(小中学校の場合)の名の下に「強制出頭」させられ、「同年齢だから」という理由だけでひとまとめにされる(学年制度)。さらに、それを30~40人に分けられ、朝からタ方まで窮屈な部屋に「軟禁」される(学級制度)。クラスでは一人一 人の能力を無視した「集団学習」が行われ、刑務所や軍隊のような「集団摂食」を強要される。グループを組まされて班活動に「動員」されたり、掃除などの「不払い労働」に従事させられる。
私もかねてから常々、学校という特殊な社会について、著者と同じような考えを持っていたので、この記述を読んで、著者と私の気質の同質性を強く感じさせられた。あるいは著者も、私と同じように、なんらかのいじめ体験があるのではないか、でなければ、著者は類い希な正義感の持ち主だと感じた。
それはともあれ、こうした特殊な学校という空間でいじめがはびこりやすい環境を、著者は次のようにまとめている。
①所属する人の流動性が低く、人間関係が入れ替えにくい。
②前もって「仲良く」すべき相手を決められ、強制される。
③市民社会とは違った特殊な秩序・ルールがあり、ノリに支配されている。
④自分にとって加害者であったり、敵であったりする人間とも「仲良く」することを強制される。
⑤一般社会から隔絶された、治外法権の閉鎖空間となっている。
そこから著者は、次のようないじめの解決策を導き出す。つまり、短期的には「学級制度の廃止」と「学校への法の導入(法に基づいた加害者の処罰)」であり、中長期的には「一つの学校に生徒を所属させる制度の廃止」である。
かなりラジカルな提案であるが、私も同感である。いじめ問題を論じる時に、ほとんどの論者が「教育至上主義」や「学校聖域論」に依拠しているのとは対照的に、著者は徹底して現存する教育体制、さらには教師集団や教育委員会(=教育ムラ)への不信に立脚しているが、これも私の実体験に基づく思いと一致する。

ところで、著者は「学校モード」と「市民社会モード」を対比させ、「学校モード」を「市民社会モード」に切り替えることでいじめの解決が図られるとしているが、本来正常に機能しているべき大人の「市民社会」が、この国では機能不全に陥っている。著者も、学校社会にはびこるいじめの構造が、日本社会の様々な領域で発生しうるとも述べ、さらに進んで次のようにも述べている。
①「復興」「頑張れ〇〇」といった集合的生命の幻想を押しつけて、②一人一人の命を虫けら扱いし安全とだます――原子力ムラの政府が国民を被曝させるがままにしておく汚い手口の一つとして、この「絆」がある。それは、学校を集合的生命とし、いじめがはびこる構造を温存し、生従一人一人の命を軽視するいじめ問題に通じるものなのだ。
著者も他のか所で述べているように、いじめは日本にのみ見られる現象ではないが、日本ほど深刻にはびこり、かつ犯罪化している国もないであろう。いじめがはびこる学校という特殊な環境で12年も教育を受けた子どもたちは、自分の頭で物事を理性的に判断して主体的に行動する市民になるチャンスを奪われ、状況に流され、周囲の空気を読みながら、自分が浮いた存在にならないように細心の注意を払って、無難に世の中を生きていく奴隷のような大人になっていくのである。こうした学校制度を解体し、その延長に形成される無数の「ムラ社会」をも解体して、真の市民社会を取り戻していかない限り、この国と国民はまっとうさを回復することなく自滅への道を歩むしかないであろう。
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