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Dr.倫太郎と日本の精神医療の現実 [Anti-psychotropic drugs]

15日から始まった日本テレビ系列の連続ドラマ「Dr.倫太郎」。堺雅人演じる精神科医が主人公で、「ドクターX」と「半沢直樹」を足して2で割ったようなタイトルにきわもの臭さを覚えつつ初回を見たが、あに図らんや、脚本の中園ミホはそうとう精神医学について勉強した跡がうかがえる。
大学病院の勤務医・日野倫太郎はライバルの宮川教授から「精神分析とやらは最新の生物学的精神医学とは逆行している」と言われる精神分析学(自己心理学)派の精神科医で、患者1人に50分も時間を割く医師。「すべての精神疾患は病ではありません。心の個性だと僕は思っています」と学生に教える。そして、宮川教授に、「患者さんの話も聞かず画像分析だけで薬を投与する宮川教授のお得意とする生物学的精神医学では救えない患者さんはたくさんいます」と言って憚らない。(その場面では、必死に症状を訴える患者を見向きもせず、画像を見ながら「薬出しときますね。次の方」と言う宮川の象徴的な診察シーンが挿入される。)

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もちろん上述したように、このドラマは視聴率を狙ったエンタメだが、脚本を書く過程で日本の精神医療の現状をつぶさに観察したであろう中園ミホは、宮川教授に象徴される「生物学的精神医学」=薬漬け精神医療の恐るべき実態を目撃したはずだ。もちろんそれを真正面から批判してはエンタメドラマは成り立たないので、その対極にある象徴=精神科医の理想として日野倫太郎という人物を造形したのだろう。日野倫太郎を主人公として肯定的に描くこと自体が、今の日本の精神医療への痛烈な批判になるからだ。
次回以降、物語はどう展開していくのか、蒼井優扮する芸者・夢乃とのラブストーリーを軸に展開していくことだけは分かっているが、肝心の精神医療がどう扱われるのか、予断は許さない。
日本においては日野倫太郎のような精神科医は、開業医としては存在し得ない。何故なら、今の日本の医療システムでは、1人の患者に50分も時間を割いていたら、全く儲からない診療報酬体系になっているからだ。そうした経営上の問題を心配する必要のない勤務医の中には、実際、ごく希に倫太郎のような精神科医が存在するが、現実は倫太郎のようにベストセラー本を出したりテレビに出演したりして、社会から脚光を浴びるようなことはなく、逆に、病院から煙たがられ、邪魔者扱いされ、クビにされるのが落ちだ。(倫太郎自身、「会議などに出る暇があれば1人でも多くの患者さんを診たい」というのなら、本を書いたりテレビに出たりする暇はないはずなのだが…。)ベストセラーを書いたり、テレビでコメンテーターをやっているような「精神科医」は、実際に医療経験のほとんどない名ばかり精神科医か、生物学的精神医学とうまく折り合いをつけているタレント精神科医だ。
この理想と現実のギャップを無理に埋めようとすると、ストーリーがとんでもない方向にいってしまう危惧もある。むしろ、倫太郎に狂った精神医療の現実と格闘させ、そのことによって、さらに日本の精神医療の隠された暗部を余すところなくあぶり出してほしいと願う。
向精神薬被害者としては、このドラマが薬漬け医療の犠牲となっている320万人の「精神疾患患者」に、自分の受けている医療のデタラメさに気づいてくれるだけでなく、精神医療や向精神薬の問題に無関心な一般視聴者に、日本の精神医療の実情を知り、おかしいと思ってくれる契機となってほしいと、切に願う。

※付言すれば、精神医学のみならず、医学全面否定にまでいきついた内海聡医師のような立場からすれば、Dr.倫太郎のような医師も否定すべき対象になるのかもしれないが、心弱きヒツジのような存在である私のような人間にとっては、倫太郎のような医師は必要だと思う。精神医学も薬物療法を唯一絶対視する生物学的精神医学が間違っているのであって、精神分析学的精神医学や精神療法は有効だと私は思う。ただし、医師を「先生」と崇め、すべてを医師に委ねる患者の立場は変革しなければならない(精神医療に限らず)。医療の主体は患者であり、患者は医師と上下の関係ではなく対等な関係であるべきであり、そのためには患者自身が自身を知り、そのための情報を得て勉強することを通して主体性を確立しなければならない。そういう意味で患者も自己に対して厳しくなければならないが、医師には患者の立場に立った真の意味の「優しさ」が求められると思う。


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