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『うつを治したければ医者を疑え!』という本 [Anti-psychotropic drugs]

私の『のむな、危険!-抗うつ薬・睡眠薬・安定剤・向精神薬の罠』が出てからちょうどひと月後に、同様のテーマを扱った『うつを治したければ医者を疑え!』(伊藤隼也と特別取材班著、小学館)という本が出たので読んでみた。(もっとも内容は「SAPIO」を中心とした雑誌に2011年から2014年に掲載された記事を再構成したもの。そのせいで、何ヵ所か重複が見られるのが気になった。)
うつ.jpgタイトルからうつをテーマにした本のように見えるが、実際はうつ病以外にも、子どもへの向精神薬の投与のほか、精神医療とは直接関係のない製薬業界と医師との癒着問題にも何章かが割かれており、多少羊頭狗肉の感が否めなくもない。しかし、子どもへの向精神薬の投与問題についてはかなり丹念な取材がなされており、一読に値する。
一方、本書を通読して感じるある種の物足りなさは、つまるところ日本の精神医療における多剤大量処方を批判しつつ、向精神薬そのものへの掘り下げた分析なり考察がなく、著者がどこまで精神医療における向精神薬の使用を容認しているのか曖昧だという点にいきつく。
私は取材と勉強を重ねた結果、統合失調症患者も含めて、向精神薬の使用は対症療法として緊急一時的・頓服的使用の有効性(例えば統合失調症患者の急性期症状への抗精神病薬の使用、パニック症状を起こした患者への抗不安薬の使用等)は認めつつも、そうしたケースも含め、心の病の根本原因は発症に先立つ精神的な体験にあり、脳内の変化はあくまでその結果に過ぎないという立場から、心理療法や漢方療法、栄養療法等がより根本的な治療法として有効であり、上述したような、現状において容認しうる薬物療法も、それらの療法によって代替可能ではないかという考えも合わせ持っている。
その辺の著者の立ち位置が今ひとつ本書では曖昧なため、登場する精神科医の発言も、皆一様に多剤大量処方には批判的でありながらも、向精神薬そのものへの評価となると不明瞭になる。そのいちばんいい例は、最後につけ加えられている井原裕医師との対談だ。ここでは井原医師は患者に向精神薬をできる限り使わない医療を実践している正義の医師として登場しているのだが、私の本では彼はある著書の中で「医師=善意の人、患者=現実逃避の依存症者」というとんでもない図式を描き出すエセ良心的精神科医として登場する。果たしてどちらが彼の本当の姿なのか? 少なくとも、私が読んだ彼の論文は、(多剤大量処方でもない)ベンゾジアゼピンの常用量依存にさせられ、離脱症状のために断薬もままならなかった薬害被害者の私の立場からすれば、到底許される代物ではなかった。
とまれ本書は、医療ジャーナリストとして丹念な取材と豊富なデータに基づいて、現在の日本の精神医療の実態を浮かび上がらせており、「これ以上、新たな被害者を生み出してはならない」、「自分がしたつらい経験を他人に味わわせたくない」という思いも、私の思い、そして私に本を書かせた動機に通じるものであり、その思いの実現に通じるために1人でも多くの被害者や被害者予備軍の手に届いて欲しい1冊ではある。



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