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ロボット社会の到来とベーシックインカム [Basic income]

今日の朝日新聞に次のような記事が載っていた。
AI・ロボで雇用735万人減 「第4次産業革命」試算
ロボットと雇用.jpg人工知能(AI)やロボットによる自動化などで、2030年度の雇用は今より735万人減る――。経済産業省は27日、AIやビッグデータなどがもたらす「第4次産業革命」が雇用に与える影響を試算した。一方で、構造改革で新たな雇用が生まれれば、雇用減は161万人減にとどまるとの分析も示した。
 AIやIoT(モノのインターネット)やロボットなどへの対応を話し合う有識者会合で示した。試算では、AIなどが人間に置き換わる職種の分析や、過去約20年間の産業ごとの消長の傾向などを踏まえて試算した。
 「現状放置」のシナリオでは、スーパーのレジ係や製造ラインの工員といった仕事がAIやロボットに置き換わるため、低賃金の一部職種を除いて軒並み雇用が減り、30年度の雇用者数は15年度から1割超減ると予測した。研究開発など付加価値の高い仕事も、第4次産業革命で優位に立った海外企業に奪われる可能性があるという。
 一方、人材育成に力を入れたり、成長分野に労働力を移動させたりする「変革シナリオ」では、付加価値の高いサービス業などが成長し、雇用減を補う高所得の仕事が増えると分析。2%の実質経済成長率も達成できるとした。
 経産省は「痛みを伴う転換をするか、じり貧かの分かれ目にある」とし、企業や系列の壁を越えたデータの活用や、労働力が移動しやすい「柔軟な労働市場」などが必要としている。(高木真也)

経産省のこの試算は、「第4次産業革命」という前提自体からして間違っている。今、日本のみならず世界を襲っているのは、資本主義の1段階としての産業革命などではなく、資本主義そのものを終焉へと導くポスト資本主義革命だ。私がこのブログで以前から主張してきているように、それは技術革新によりさらに高度化した生産力の元で労働力を吸収する資本主義のシステムそのものを破壊する、AIやロボットへの人間労働の置換だ。したがって、「2030年度の雇用は今より735万人減る」という計算がもし正しいとしても、「構造改革で新たな雇用が生まれれば、雇用減は161万人減にとどまる」ことはあり得ない。私の勘では、2030年までのAIやロボットによる失業者は735万人の倍以上の1,500万人くらいになるのではないだろうか。アメリカでは、今後20年以内にコンピューターやロボットに雇用の半分が奪われるといったような議論が盛んだが、そちらの方がより現実味がある数字に思われる。

オートレジ.jpg

オートレジ


コンピューターに奪われた翻訳という仕事
私が自分の翻訳者という職業をコンピューターに奪われると直感したのは、今からもう20年以上前のことになる。最初に韓国語翻訳ソフトを使ってみたときのことだ。当時、翻訳ソフトは正訳率70~80%でほとんど使い物にならず、「10年後に翻訳者は翻訳ソフトに駆逐される」という私の直感的主張に対して、「2進法のコンピューターにとってファジーな言語は最も苦手な領域」という楽観論が主流だったが、現実にその10年後の2005年に、私は危うく職を奪われる危機に直面することになった。その頃までに翻訳ソフトの正訳率は新聞記事程度なら98~99%レベルにまで達し、折からのグローバリゼーション(ネットの発達により、翻訳単価の安い韓国企業に仕事が流れる)とも相まって、私の仕事量と単価低下による売上げ減は33%に上った。
そして3年前にも売上げはさらに33%減り、今年に入り、韓国語翻訳の世界はついに最終的な絶滅段階へと突入した感が強い。

あらゆる分野で進む静かな革命
身をもってコンピューターにより仕事を奪われてきた私にとって、ここ2、3年ようやく日本でも話題にされ始めた「AIやロボットが仕事を奪う」といった議論は「何を今更」感しか湧かない。実は、今でも労働力の半分くらいはコンピューターやロボットに代替しようとすれば可能なのだが、それにかかる研究開発費や設備投資に比べて、安価な単純労働力に頼った方が当面安上がりだから、それほど急速に置き換えが進まないだけの話なのだ。
今後は、工場の生産過程やスーパーのレジなどの単純労働のみならず、あらゆる専門技術を要する高級労働力も、AIやロボットに置き換わっていくだろう。
私が10年ほど前に仕事が3分の2に減った時に思ったことは、2進法のコンピューターが苦手な翻訳でさえ仕事が奪われるのに、コンピューターの本来の仕事である計算ひとつで解決できるはずの税理士の仕事がなぜ奪われないのかという疑問だった。答えは簡単、フリーの翻訳者は同業者の組合もなく最も弱い立場に置かれているが、税理士は税理士会という強力な圧力団体があるため、その権力によって「税務申告ソフト」の開発を阻止しているに過ぎないということだ。
それと同様に、医師や弁護士業務などはある程度、彼らの社会的地位に即応した権力行使によって仕事を確保していくであろうが、例えば医療用ロボットのめざましい進化を目にすると、医者連中もコンピューターやロボットを利用しているつもりでも、気がついてみるとそれらにいつの間にか仕事を奪われているという静かな革命が進行していくことだろう。

医療用ロボット.jpg

医療用ロボット


ロボット、コンピューターの生み出した価値はベーシックインカムで分かち合う
でも、恐れることはない。仕事を奪われても、従来人間が生み出していた価値はコンピューターやロボットが自律的に生み出してくれるのだから。問題は、それら生み出された新しい価値を、一握りの特権者に独占させないことだ。現在の99%対1%の対立は、その構図を先取りしたものと捉えることができる。
ポスト資本主義時代の人類は、そうではなく、ロボット、コンピューター、AIが生み出した価値(生産物)を人類共同の財産として分かち合うべきなのだ。それは、現在の貨幣経済の延長線上ではベーシックインカムという形態で、すべての人々に等しく分配される。ヨーロッパの21世紀型市民政党が一様にベーシックインカムの導入を政策課題として掲げているのも、それ故のことだ。
実際、スイスでは月額30万円程度のベーシックインカム導入の是非を問う国民投票が6月に実施される。おおいに注目されるところだ。



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