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『タイム・トラベル-北野慶短編小説集-』電子書籍化 [Novel]

『タイム・トラベル-北野慶短編小説集-』を電子書籍化しました。以下の3編を収録してあります。是非ご一読を[exclamation]
http://p.booklog.jp/book/27470
知人の死
私はある日、戸田晋から「免疫が利かない体になってしまった」と相談を受ける。
韓国・楢崎夏男の場合
「実はおれの親父は、昔、無国籍者でね」楢崎夏男がぽつりと言った。
タイム・トラベル
末期癌の宣告を受けた私が真っ先に思っい浮かべたのは、初恋の人マリーのことだった。

小説『僕の部屋』電子書籍刊行 [Novel]

以前自ら運営していた電子書籍販売サイトで取り扱っていた本の復刻版です。多くの〈17歳事件〉の原点ともいえる作品です。興味のある方は是非ご一読を!→
http://p.booklog.jp/book/27403

電車の中のハチ [Novel]

そろそろ夕方のラッシュが始まる時刻の下り電車の車内だった。吊革にぶら下がる私の視界をよぎる物があった。行方を追うとハチだった。人の林の中を縦横無尽に飛び交うハチに、やがて車内の片隅はざわめき始めた。
その時だった。ハチが、座席に座っている禿頭の中年サラリーマンのお腹当たりにとまり、彼があわてて持っていたハンカチでそれを払いのけたのは。その拍子に、ハチは床に落ち、身動きしなくなったようだった。
「死んだようですね。」とサラリーマンはつぶやき、隣に座っていた若い女性が笑顔で答え、車内には安堵の色が広がった。私は1メートルほど斜め先の座席下にいるはずのハチの姿を確認しなかったので、ひょっとしてハチは、彼の革靴につぶされてしまったのかと思い、“かわいそうに”と心の中でつぶやいた。“僕の所に来てとまれば、僕が降りるときに連れて出て助けてあげるのに……”
ようやく落ち着きを取り戻した車内は、その後、二駅ほど何事もなく過ごし、いつものように偶然居合わせた無関係の人間たちの沈黙を続けた。ところが、しばらくしてまた車内にざわめきが広がった。死んだはずのハチが床からフラフラと立ち昇り、再び車内をさまよい始めたのだ。
「気絶してたんですね。」人の良さそうな中年サラリーマンが苦笑して、誰へともなくつぶやいた。そんな彼の独白に応えるように、ハチの動きに合わせて人並みが揺れ動いた。
しかし、今度は先ほどとは異なり、騒動はじきにやんでしまった。ハチが行方不明になってしまったようだ。
ほどなく下車駅に到着し、私はドア口の人々の群に従い下車した。外は夕暮れ時にもかかわらず、相変わらず蒸し暑かった。駅舎のエスカレーターを降りた私は、駅前のベンチに、背負ったリュックを降ろして上着を脱ごうとした。
その時だった、ベンチの上の黒いリュックの右上に、茶色い大きなハチの姿が目にとまった。そうだったのか、車内が静かになったのは、ハチが私のリュックに止まったからだったのだ。ハチに私のテレパシーが通じたのか、図らずも私が空想した通りの展開になったのだ。
ハチは、何を考えているのか、身動き一つしなかった。私は、リュックの内側からハチを思い切りつまはじきしてやった。瞬間、ハチは息を吹き返したように、夕暮れの空に向かって飛び立っていった。
私の傍らを、先ほどの車内の騒動を知らぬ乗客たちが、何事もなかったかのように足早に通り過ぎていった。
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