SSブログ

小説・再稼働(4) [Novel]



12月10日、事態が急変した。お昼過ぎ、それまで数日間遮断されていたインターネットが突然通じるようになったのである。三倉地政権の民主主義を逸脱する行為を座視できなくなった同盟国が、綿密な情勢分析を行った末に、日本が完全な独裁国家になって核武装の危険性を孕むより、原子力エネルギー政策を放棄することになっても、同盟国として、民主主義国家として存立する方が自国の利益に適うと判断し、緊急に日本上空をカバーする通信衛星を相次いで打ち上げたのである。その通信衛星が発する電波によって、インターネットが通じるようになったというわけだ。
その事実を事後通告された三倉地総統は、即座に内政干渉だと同盟国に抗議したが、その抗議は受け入れられず、それどころか、三倉地政権は同盟国から引導を渡されたも同然の状態であった。
その日の夕刻、政権幹部を除く全国会議員が国会上院に集まり、緊急両院議員総会が開かれ、三倉地総統の罷免決議を全会一致で採択、野党第一党である社会主義自民党の割垣(わるがき)総裁を臨時総統に選出し、割垣臨時総統はその場で下院の解散を宣言した。かくして憲政史上例のない経過をたどって、下院議員総選挙が行われることになったのである。
こうした動きを受けて、宿内原発3号機建屋内の“アジアの赤い虎”たちも素早い動きを見せた。幹部らは緊急会議を開き、もはや交渉相手を失った状態で、三倉地総統に突きつけた2つの要求は意味がなくなったものと判断した。そして1ヵ月後に行われる下院議員選挙でどんな政権が誕生するにせよ、その間、1月10日までは政権に空白期間が生じるため、再稼働の決定が下される可能性はほぼない。そして、万一新政権が再稼働をしようとしても、手続きにかかる時間と実際の再稼働までの時間を考慮すると、再稼働の時期は冬の電力消費のピークを過ぎ、暦の上ではとうに春になっているであろう。つまり、もはや再稼働の大義そのものが失われたのである。
“アジアの赤い虎”はその夜のうちの原発撤収を決定した。



午後7時30分、“アジアの赤い虎”は、ネット上に午後8時に宿内原発を撤収するとの声明文を発表。同声明文はマスコミ各社へも送られた。
8時を前に、宿内原発正門付近はマスコミ関係者をはじめとした人々であふれかえり、また、海に面した部分をのぞく宿内原発周辺は、数千人の武装機動隊によって包囲された。
そうした敷地外の喧噪を尻目に、百余名の“アジアの赤い虎”たちは、10日ぶりに3号機建屋の扉を開けて外に出てきた。そして、10日前に宿内原発に侵入した時と同じ素早さで、建物の中から手際よく「強力爆弾」の入った容器を運び出し、原発敷地内を囲繞するように一定の間隔を空けて置いていった。その様子は、敷地外からも一部目撃されたが、人々はそれを見て不安がるだけで、武装機動隊も身じろぎもせず注視する以外に術がなかった。
「“アジアの赤い虎”が撤収予告した午後8時まであと1分を切りました。さきほど爆弾らしきものが建物の外に運び出される様子が目撃されましたが、それ以降、内部に目立った動きはない模様です。」マイクを持ちヘルメットを被った男性リポーターが正門を背に実況中継していた。
その時だった。ドン、ドン、ドン、ドンッ――と、敷地内のあちこちから連続して爆発音がとどろき渡った。正門前のマスコミや野次馬はもちろん、原発を包囲した武装機動隊員も、悲鳴を上げ逃げ惑った。辺り一帯は完全に混乱状態に陥り、先ほどのリポーターも職務を放棄し、どこかへ消えてしまった。
その数秒後、今度は上空にまばゆい閃光が走った。人々はとっさに手をかざして光の方向へ目をやった。
(続く)
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。