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スイス「ベーシックインカムのための国民投票」(上) [Basic income]

ロイター通信などによると、市民運動の代表者がこれまでの活動で集めてきた署名10万人分を政府に提出し、国民一人あたり(成人)に1カ月2500スイスフラン(約28万円)を支給することを訴えた。また、そのパフォーマンスとして、国会議事堂に2500スイスフランの硬貨をトラックからぶちまけた。
(アメーバニュース 10月8日)
日本のマスコミでは全く報道されていないが、今、世界のベーシックインカム支持者の間で、スイスのこの動きが注目を集めている。以下は、韓国の月刊「左派」11月号に載った文章の翻訳(前半)である。

スイス「ベーシックインカムのための国民投票」

クム・ミン ベーシックインカム韓国ネットワーク運営委員長、「左派」編集委員長
去る10月4日、スイスでは126,000人が署名した「ベーシックインカムのための国民投票の請願Volksinitiativefur ein bedingungsloses Grundeinkommen」が連邦内閣事務局Bundeskanzleiに提出された。スイス人10万人以上の署名という要件を満たした国民投票請願の内容は、スイス憲法に次のような条項を新設しようというものである。
第100条a 無条件のベーシックインカムbedingunsloses Grundeinkommen
1. 連邦は無条件のベーシックインカムの導入を準備する。Der Bund sorgt fur die Einfuhrung eines bedingungslosen Grundeinkommens.
2. ベーシックインカムはすべての住民に人間らしい生活と公的生活に対する参加を可能にしなければならない。Das Grundeinkommen soll der ganzen Bevolkerung ein menschenwurdiges Dasein und die Teilnahme am offentlichen Leben ermoglichen.
3. 特にベーシックインカムの財源と金額に関しては法律で定める。Das Gesetz regelt insbesondere die Finanzierung und die Hohe des Grundeinkommens.

国民投票案は憲法第100条aを新設する憲法改正案の形式をとっている。こうした憲法改正案が通過すれば、立法府はベーシックインカム支給金額と財源に関する法律を制定しなければならない。財源と支給金額に関する法律の留保は、この問題を立法府に任せるという意味である。しかし、憲法改正案さえ通過すれば、立法府が支給金額と財源調達方式をどのように決定しようと、ベーシックインカムは無条件に導入される。
この国民投票案はどんな過程と手続きを経て、いつ頃国民投票に委ねられるのだろうか? まず国民投票案は行政府である連邦参事会Bundesratで審議される。この過程は1年を超えることができない。連邦参事会は国民投票案に対する意見を付して立法府(国民議会と全州議会)National- und Standeratへ回付する。立法府は国民投票案を議論し意見を付する。その後、初めて国民投票が実施される。立法府の審議は1年半以内になされなければならず、普通は10ヵ月程度かかる。立法府の意見は参考及び勧告機能を有するだけで、国民投票の効力にいかなる影響も及ぼさない。10万以上の署名を受けたからといって、国民投票が直ちに実施されるのではなく、最大2年半の審議期間を経るという点が重要である。競合的な国民投票案が成立した場合は審議期間が延長されて、提出後4年後になって国民投票が実施されることもある。
国民投票を推進した「無条件のベーシックインカムイニシアチブInitiative fur ein bedingungsloses Grundeinkommen」(http://bedingungslos.ch/)は、このように審議期間が長いという点が不利ではないとみる。全社会的な議論を呼び起こし、賛成世論を拡大することができると判断している。11月4日に実施される予定の国民投票案に「1対12」と呼ばれるものがある。ひとつの企業の中で最高経営者の報酬がその企業内の最低賃金の12倍を超えることができないようにしようという案である。この案は最初は賛成世論が圧倒的だったが、投票日が近づくにつれ反対世論が広がっている。2012年にはスイス連邦労組SGBが支援していた有給休暇制度の延長が国民投票で否決されることがあった。その上、ドイツの場合は最近の世論調査でも全国民の69%がベーシックインカムに賛成という結果が出る半面、スイスのベーシックインカム賛成世論はドイツのレベルに達していない。こうした事情を勘案すると、議論の期間が長いという点は、ベーシックインカム運動の拡大にかえって有利であるともいえよう。
ベーシックインカムの導入を国民投票に委ねようとする試みは2011年にもあった。当時の提案は環境税を上げて税収不足額を埋めようというものであったが、与えられた期間内に有効署名数を満たすことができずに請願に失敗した。今回の請願が迅速な期間に要件を満たした理由は、ベーシックインカム導入を憲法改正事項として請求し、具体的な立法を立法府に委任したためと思われる。国民投票請求を主導した側は、こうした形態の運動によって、議論が財政が充分かどうかの問題だけに狭められず、社会の未来を巡る政治的で哲学的な問題へと広がったと判断している。

ベーシックインカム財政を巡る内部の異論
財政の問題を後回しにした理由は、スイスベーシックインカム運動の内部の異論とも関係する。
スイスのベーシックインカムネットワークは支給金額を2,500スイスフラン(約27万円)とするという点には意見の一致を見ている。物価水準を勘案して実質実効為替レートで評価すれば、それほど高くない金額である。スイスの貧困ラインは2,378スイスフランで、老齢年金最低支給額が2,500スイスフランであり、労組は最低賃金4,000スイスフランを要求している。ベーシックインカムを導入するかどうかが議論になっているが、2,500スイスフランという基準に対しては社会的に大きな論議はない。
しかし、財源調達方式に関しては、ベーシックインカム運動内部に相当な異論が存在する。社会民主党員で行政府である連邦議会のスポークスマンであったオスワルド・ジックOswald Siggは、富裕税で税収不足額をカバーすべきだと主張するが、ベルンで大型レストランなど飲食業と文化事業を営んでいるダニエル・ヘニーDaniel Häniは、現行8%である付加価値税を20%まで引き上げて充当しようという。* ヘニーの主張はドイツのゲッツ・ヴェルナーGötz Wernerの主張と一脈通じる。ドイツでDMというドラッグストアーチェーン店を経営するゲッツ・ヴェルナーは、2005年頃に放送を通してベーシックインカム導入を主張して、ベーシックインカム世論の拡大に大いに貢献した。しかし、一切の税金をなくし付加価値税のみを残し100%まで上げて[訳注]、これを財源にベーシックインカムを支給しようという彼の主張は、ベーシックインカム・ドイツネットワークで支持を得られなかった。もちろん、ヘニーの主張はゲッツ・ヴェルナーのように税金を間接税のみに置き換えようという提案ではなく、不足額の充当問題にのみ限定されている。それでも、彼は自身のビジョンが「所得に課税する代わりに消費に課税」しようというヴェルナーの主張と一致すると表明している
*2人の「ターゲスボッヘ」論争を見よ。http://tageswoche.ch/+basus.
論争になる部分は、もっぱら約200億スイスフランに該当する不足額に関するものである。スイスのベーシックインカムネットワークと国民投票を主導した団体である「無条件のベーシックインカムイニシアチブ」執行委員会は、総財政需要2,000億スイスフランのうち800億は老齢及び遺族年金Alters- und Hinterlassenenversicherung等、基本の現金給付に充当され、1,000億は賃金に含まれており、ただ200億だけが不足すると見る。したがって、この200億スイスフランが議論の中心となる。賃金に含まれているという1,000億に対して、スイスのベーシックインカムネットワークは清算モデルVerrechungsmodellを提案する。現在受け取っている賃金のうち2,500スイスフランを企業が労働者に支払う代わりに、国に振り替えるのである。労働者は国から2,500スイスフランのベーシックインカムを受け取るので、所得水準の変動はない。* こうしたモデルを適用する場合、ベーシックインカム導入は労働所得の不均衡を緩和しない。賃金格差緩和のためには、「1対12」や4,000スイスフランへの最低賃金引き上げのように、他の種類の法律が必要であろう。こうした改革に対して、ベーシックインカム運動の中にも支持者が多い。重要な点は、スイスのベーシックインカムネットワークは賃金政策を通してのみ実行される賃金格差緩和より、自分たちが提案する清算モデルが労働と所得の連係に関連して、より大きな社会的認識の変化を産むものであると見る点である。
*概略的な財政モデルに関しては次を見よ。 Albert Jo¨rimann,Ein bedingungsloses Grundeinkommen - modern und effizient,Gent 2007 (Hefte zum Grundeinkommen Nr. 1).
[訳注]実際にはヴェルナーは付加価値税50%を主張している。「無条件のベーシック・インカムの財源確保のために付加価値税を最終的に五〇%まで引き上げること、これが私の提案です。」(『すべての人にベーシック・インカムを』渡辺一男訳、現代書館)
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