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拉致問題を利用し首相にまでのし上がった不埒な男 [Politics]

拉致問題への関心
私は遅くとも1990年代半ばから、いわゆる「日本人拉致疑惑」について週刊誌などを通して関心を持ってきた。そして、20代からの韓国・朝鮮との関わりから、北朝鮮による拉致は疑いないと確信してきた。実際、2002年の小泉訪朝により、北朝鮮当局による拉致が白日の下にさらされた。
左派・リベラル勢力の間では、おしなべて小泉純一郎の評判が悪い。私も竹中平蔵を重用した新自由主義政策が格差社会を加速させた点は許し難いと考えるが、引退後の脱原発派への転向のみならず、首相時代の2度に渡る訪朝・日朝首脳会談の実現と拉致被害者の帰国実現に見られるような有言実行の行動力は、日本の首相には珍しいタイプ(事実「変人」と呼ばれた)として、「敵ながらあっぱれ」と評価してきた。
その一方で、拉致被害者やその家族が脚光を浴びるにしたがい、「救う会」と称して何かと彼らの周りをうろつく連中には苦々しい思いをしてきた。彼ら、故佐藤勝巳西岡力荒木和博らについて、昔勤めていた出版社にいた頃、「現代コリア」のメンバーとして知っていたからだ。特に佐藤勝巳については、60年代に日本共産党員として在日朝鮮人の帰国事業に関わりながら、北の実情を知り右に転向したのだが、当時私の勤務する出版社へ現れては「本当に韓国人とはつきあいきれんわ」などと、社長相手に延々と韓国人らに罵詈雑言の限りを尽くす様を陰で聞いていた私は、「だったらつきあうなよ」と言いたい思いだった。また、当時彼が書いた北朝鮮批判の文章を読んだことがあるが、共産党時代からゴリゴリの教条主義者だったのだろう、転向したとはいえ頭の中の論理構造はそのままで、ただ主客が転倒しただけの、形式論理で北朝鮮攻撃に終始する内容に辟易とさせられた。そんな彼が所長を務めるのが「現代コリア研究所」で、韓国に語学留学経験のある西岡力がその愛弟子、後に民社党を辞めた荒木和博がそこに加わった。そして数年後、気がつくと彼らがそろって「救う会」と称して「家族会」の後見人のような顔をしてしゃしゃり出ていた。
また、小泉訪朝に官房副長官として金魚の糞みたいにくっついて行ったに過ぎない安倍晋三が、拉致被害者の帰国をあたかも自分の手柄のように自慢して、拉致を売り物にして首相の座にまでのぼりつめた。しかし、2度目の首相就任早々、戦後の歴代政権が築き上げてきた韓国や中国との友好関係をメチャメチャに破壊しつくし、2年以上首脳会談もままならない異常事態を目の当たりにして、これではとうてい北朝鮮と交渉して拉致問題を解決することなど不可能、いや、そもそもそれをやる気もないのだと思ったものだ。「拉致被害者を取り戻す」など「日本を取り戻す」同様、空疎なスローガンに過ぎないのだ。

問題なのは過ちを認めることではなく、過ちに気づくことすらできないことだ
rachi.jpgそんなこともあり、「家族会」を離れた蓮池透さんの書いた『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)を興味深く読んだ。
蓮池さん自身、弟の帰国をひとつの契機に、「家族会」や「救う会」へのスタンスが変化を続けて今に至っていることや、本書が時系列での記述でなく重複も多いことなど、必ずしも読みやすい構成にはなっていないのだが、最後まで読むといくつもの興味深い事実が述べられていることに気づかされる。
例えば、上述した「現代コリア」の面々だが、蓮池さんによると「家族会」を乗っ取った彼ら「救う会」も、実は内部で激しい内ゲバが繰り広げられていたそうだ。ファナティックな反北朝鮮教条主義的たちらしい醜態といっていいだろう。
また、安倍晋三に関していえば、独裁者というものは、例えば金日成なら百戦錬磨の抗日パルチザンの将軍だったとか、金正日は朝鮮人が聖なる山と崇める白頭山で生まれたとかいう神話をつくりだすものだが、ご多分に漏れず、彼も訪朝時に「金正日が拉致を認めて謝罪しなかったら席を蹴って帰国しましょう」と小泉首相に進言したとか、拉致被害者の一時帰国時に北朝鮮へ戻るのを止めたのは自分だったなどという話を自らねつ造して、「拉致の安倍」神話をつくりだしてのし上がっていった過程が、本書で暴露されている。
しかし、本書の魅力は、日刊ゲンダイのタイトル風の少々どぎつい書名にうかがわれるような、「冷血な面々」を激しく批判することにあるのではない。実は逆だ。ノンポリのいちサラリーマン(東京電力勤務)に過ぎなかった蓮池さんが、被害者家族として運動に関わるなかで、上述したような有象無象の運動のプロたちによって翻弄され、犯した数々の過ちへの赤裸々な告白とそれへの自己批判・反省の言葉に満ちている。そこに蓮池透という人の飾らない誠実な人柄がうかがえる点こそ、本書のいちばんの魅力だ。その上に立って、政府・外務省はもとより、「家族会」や「救う会」への建設的な提言を含めて批判している。問題なのは過ちを認めることではなく、過ちに気づくこともできないことだ。過ちに気づき、反省することなしに進歩はないのだから。

ブルーリボンへの違和感
拉致被害者救出のシンボルとしていつしかブルーリボンのバッジが用いられるようになった。それを「家族会」や「救う会」が着けているうちは気にならなかったが、そのうち国会議員が着け始め、民主党政権時代には首相までが、ことあるごとにそれを背広の襟に着け始めた。そのことに私はとても違和感を覚えた。いかにも拉致問題に取り組んでいますという証のようでもあり、それだけでなく、むしろ無言の強制がそこにはたらいているような気味の悪ささえ感じたからだ。
その点に関して蓮池さんはこう述べている。
「あなたが拉致問題を重要視するならブルーリボンバッジを付けなさい」と、「家族会」と「救う会」が強要する現実があることは否定できない。……まさしく踏み絵である。
ブルーリボンは「家族会」と「救う会」が圧力団体として、時の政権や官僚にまで影響力を行使しているまさにひとつのシンボルなのだ。

嫌韓・ヘイトスピーチの原点としての拉致認定
本書を読んで認識を新たにしたことに、2002年の金正日による拉致認定が、一方で日本国内に反北朝鮮感情を巻き起こし、それがひいては今日の嫌韓・ヘイトスピーチの跋扈へとつながってきた過程がある。
アジアの「加害国」であり続けた日本の歴史のなかで、唯一「被害国」と主張できるのが拉致問題。」と蓮池さんは述べている。
実際、拉致認定を機に、日本各地の朝鮮学校に通う児童・生徒らへの悪質な嫌がらせが相次ぎ、一時朝鮮学校では、民族服を着ての通学を見合わせる事態になったことを思い出す。そうした延長線上に、民主党政権がマニフェストで掲げた高校授業料無償化政策でも、朝鮮高校だけが唯一その埒外に置かれる事態も生じた。
嫌韓・ヘイトスピーチの背景には、失われた20年を経て日本が経済的凋落をたどるなか、とくに若年層の鬱屈とした感情のはけ口がより弱いものへと向かい、排外主義が台頭したという、欧米にも共通する時代的なものもあるが、北朝鮮による拉致認定が、日本ではその発火点になり、韓流ブームの潜伏期を経て3・11後顕在化したことは否定しがたい事実なのではなかろうか? そしてかれらのヒーローとして祭り上げられた人物こそ、ほかならぬ「拉致問題の安倍晋三」であった。

左翼・リベラルの弱点
上述したように、拉致被害者の「家族会」が「現代コリア」というファナティックな反韓・反北朝鮮グループに乗っ取られた原因のひとつには、左翼やリベラル派が拉致問題をタブー視して関わりを避けてきたことがある。事実、神戸の有本恵子さんの両親は、当初地元選出の土井たか子社会党委員長の事務所へ相談に行ったが相手にされなかったという話を聞いたことがある。今回、本書を読んで「救う会」の当初の世話人に共産党の国会議員がいたということを初めて知ったが、左派で北朝鮮に対して一貫して厳しい姿勢をとり続けてきたのは共産党くらいではないのか?
蓮池さんも触れているように、戦中・戦後世代には韓国・朝鮮に対する「贖罪意識」があって、韓国・北朝鮮あるいは韓国人・朝鮮人に対して批判がましい言辞を吐くことに必要以上に禁欲的になる傾向があった。また、実際にそのような批判がましいことを面と向かって言うと、「加害者の日本人がなんだ!」と反発する反日感情も、相手方に少なからず存在した。
私自身も、1990年~93年に韓国生活を経験するまではそういう傾向があったが、韓国生活を通して認識を改めた。反省すべきは反省し、歴史に学ぶべきところは学びつつ、相手のおかしな点、間違っていると思う点は忌憚なく言うべきだ―そう考えを改めたし、実際そう行動してきたつもりだ。真の友好関係とは、そのような何でも言い合える関係性を築くなかでしかなりたたないと思ったからだ。
「贖罪意識」に根ざす批判タブー意識は、旧社会党系の活動家や進歩的知識人の中に、未だ見受けられる。そうした意識が北朝鮮の拉致という事実、ましてや「疑惑」にとどまっていた段階で、それに蓋をする役割を果たした点は否定しがたい。これほど人権無視の非人間的な犯罪行為はないのだから、当時の社会党や日弁連、リベラルな学者・文化人が真剣にこの問題に取り組んでいたならば、事態はもっと違う形で進展していたであろう。少なくとも「拉致問題」が極右勢力の専売特許になることは防げたはずだ。そして、胡散臭い「現代コリア」などという連中が、わらにもすがる気持ちの「家族会」の人々の心の隙につけ込むことも許さなかっただろう。もちろん、それを政治利用し、手柄をでっち上げて、それをひとつのテコにして首相にまでのし上がる男も出現しなかったかもしれないのだ。

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