SSブログ

(長期連載)ロボット社会の到来とベーシックインカム ③ODAを途上国へのベーシックインカムへ [Basic income]

グローバル・ベーシックインカムという視点
 従来、全国民に無条件に一律に支給されるベーシックインカムは、様々な社会福祉、社会保障制度を一元化する手段として、とりわけ新自由主義などからは行政の簡素化や小さな政府に都合のいい制度として歓迎されてきた一面がある。前述したミルトン・フリードマンもそうだが、日本でも堀江貴文などが、経営者の立場から「解雇をしやすくなる」などと、ベーシックインカムの導入を主張している。
 しかし私は、ベーシックインカムを、資本主義がこれ以上成長を続けられずに終焉を迎える過程で、また、ロボットやコンピューター、AIがどんどん人間労働に代替し人々が仕事でお金を稼いで生活手段を得ることがますます難しくなる過程で、なおかつ、世界中にモノとカネが溢れすべての人々が飢えずに生活していけるにもかかわらず、その富が一国内でも国家間、地域間でも偏在しているために、カネ詰まり、モノ詰まりを起こして壊死しそうな経済を救う、ポスト資本主義へ架け橋を渡す最大限有効な手段として構想している。
 そのためにも、ベーシックインカムはグローバル化した経済システムのなかで、一国レベルで考えるのではなく、グローバルレベルで構想した方がより効率的だと思う。
 その際、低開発国や途上国のベーシックインカムを考えるのに、岡野内正の「グローバル・ベーシック・インカム」の視点が大いに参考になる。岡野内正著訳の『グローバル・ベーシック・インカム入門』(明石書店、2016年)では、特にナミビアでの社会実験の結果が詳しく描かれている。

ナミビアでの社会実験
 同書の第1部は実験開始から1年余り後の2009年4月に出された「ベーシック・インカム給付試験実施プロジェクト評価報告書」の翻訳だが、興味深い記述が随所に見られる。
 このプロジェクトの推進主体であるナミビア・ベーシック・インカム給付推進連合はナミビアのキリスト教協議会、ナミビア労働組合連合、ナミビアNGOフォーラム、ナミビア・エイズ対策組織ネットワーク、ナミビア青年団体連合からなる。実験が行われたオチベロ・オミタラ村はナミビアの首都ヴィントフックの東100㎞ほどの距離にある人口千人足らずの貧しい村だった。この村の老齢年金を受給している60歳以上の者を除くすべての住民に毎月100ナミビア・ドル(700円弱)が支給された。いくら物価水準が違うといっても、これはせいぜい数千円程度の感覚だ。
 にもかかわらず、この給付によって村人たちは、「自分の仕事を増やして、支払いにあてたり、利潤や家族の稼ぎを得たり、起業したりできるようになった。」「このような結果は、ベーシック・インカム給付が、人々の怠惰や依存を引き起こすというベーシック・インカム反対の論拠を、事実によって否定している。」
「ベーシック・インカム給付は、犯罪の減少にも大きく貢献した。」
「ベーシック・インカム給付導入は、生きていくうえでの女性の男性への依存度を減少させた。」
「ベーシック・インカム給付は、安全網というよりはむしろ、貧しい人々をより持続的な生活設計に向けて押し上げる跳躍台(スプリングボード)なのである。」

全国規模の給付が可能
 そして同報告書は次のように結論づける。「ベーシック・インカム給付は、貧困と失業を減らし、経済活動と生産性を増加させ、ほとんどのナミビア人の教育水準と健康状態を改善する。」そして、「ベーシック・インカム給付のために必要な費用は、国民所得の2・2~3・0%という巨額なものになることは疑いない(が)……付加価値税や所得税を若干手直しするか、あるいは天然資源の採掘量を値上げするか、あるいは予算の優先順位を変えること、もしくはそれらの組み合わせによって、ナミビアはすぐにでも全国規模のベーシック・インカム給付を始めることができる。」
 これを受けて岡野内正は次のように述べている。
「ナミビアやブラジルのように、植民地時代の入植者の子孫が輸出向けの鉱工業や大規模農業を築いている国では、ほとんどの「先進国」と同様に、それぞれの政府が自力でベーシック・インカムの財源を捻出できる。つまり国家財政の側でその気になって、国民全員の必要最低限の所得総額分を税として吸収したとしても、なお企業や資産家のために利潤や利子や地代、そして賃金労働者のために必要最低限以上分の賃金となる所得部分が残されてあまりある。そんな国民総所得をもつ国民経済となっている。
 しかし多くの「途上国」は、植民地時代以来の「開発」の結果、国民経済は破たんし、ベーシック・インカムの財源を捻出できない。「援助」によってかろうじて国家が存続している国も多い。「破たん国家」として紛争地帯をかかえる国も少なくない。
 そのような国々も含めて、旧植民地地域の全体にベーシック・インカム導入の運動が広がれば、それは、新しい「援助」による「開発」を求める運動になるだろう。それはもはや援助ではなく、植民地化される過程での暴力と略奪に対する歴史的正義回復の第一歩として位置づけられるようになるかもしれない。」

ODAを途上国へのベーシックインカムへ
 2013年のOECD加盟国の政府開発援助(ODA)総額は1348億ドルで、これはちょうどアフリカ諸国の下位半分の国々のGDPに匹敵する。ODAは経済先進国が発展途上国の経済発展や福祉の向上を目的に行う援助ではあるが、実際には独裁政権や現地資本と癒着したり、途上国の貧富の格差を拡大させるなどの弊害を生むことも多い。また、インフラ整備に偏った援助は、被支援国の環境破壊を引き起こしたり、現地住民の生活環境を破壊することもある。
 そこで、OECDの開発援助委員会を「途上国ベーシックインカム援助委員会」に改組し、各途上国のGDPや貧困指数、人口などに応じて適正に配分し、被援助国にはそれぞれ「ベーシックインカム委員会」を設けて援助金と各国独自に徴収されたBI資金を合わせて全国民にベーシックインカムを支給すれば、どんなに優れた援助よりも途上国の貧困問題を解決することができるだろう。ナミビアのベーシックインカム給付実験は、そのことを雄弁に物語っている。
 現在、各国が行っているODAの事業内容は、ベーシックインカムの支給を受けて貧困を脱した各国民が、自らの手によって必要に応じて解決していくことができるようになるだろう。そして、外国資本による大規模開発の代わりに、健全な国内循環経済が成長していくだろう。経済先進諸国による搾取は終わり、各国が地域の特性に合った、身の丈に合った循環型経済を構築することを可能にするだろう。

BI1.jpg

BI1.jpg

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。