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(長期連載)ロボット社会の到来とベーシックインカム④BIの前提、「積極的デフォルト」と財政の一元化 [Basic income]

1億総中流社会から格差社会へ
 第二次世界大戦後の約半世紀間、先進資本主義諸国は低開発国や途上国からの富の移転=収奪を元に、労働者階級の中流化を促進し、第三次産業の発展が消費経済を潤し大衆消費社会を実現してきた。この間、貧富の格差は大幅に緩和され、社会保障制度の整備・充実化がそれを確実なものにしてきた。
 しかし、20世紀も最後の10年にさしかかるころから、資本主義周縁部の開発が極限まで進み収奪システムがうまく機能しなくなったばかりか、経済のグローバル化とも相俟って先進国・途上国の平準化が進行し、一方でIT革命によるイノベーションはそれまでの技術革新と異なり、相対的過剰人口の吸収どころか、むしろ絶対的過剰人口を生み出し続ける結果となった。
 そうしたなかで先進資本主義諸国は経済成長が鈍化し、失業率の上昇と非正規雇用の増加等を生み、中流階層は急速にやせ細り貧富の格差を拡大させることになった。
 なかでも戦後、奇跡の復興と経済成長を成し遂げ、世界屈指の経済大国に成り上がった日本は、バブル経済の崩壊を契機に一気に右肩下がりのゼロ成長を続け、経済的凋落過程を四半世紀も継続してきた。(図1)*

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(図1)


*バブル崩壊は日本経済の蹉跌の一因ではあったが、それを四半世紀も引きずることになったのは、アメリカを中心にIT革命が進行するなか、日本はその波に完全に乗り遅れて、後塵を拝することになったからである。例えば、世界標準のコンピューターOSの開発に失敗し、多機能携帯電話を生み出しながらも世界化できずガラパゴス化したあげく、そのいいとこ取りにコンピューターを合体させたiPhoneはじめスマートフォンに道を明け渡し、ソフト面でもワープロ、インターネットポータルサイト、ネットショッピング、SNS等でなにひとつ世界標準を生み出せなかった。かつて、世界に誇るソニーやトヨタ、パナソニック等を生み出してきた日本経済の面目は見る影もない。もし日本経済に再興のチャンスがあるとしたら、AIやロボット技術で世界に先駆ける独創的なイノベーションを生み出す以外にないであろう。

 高度成長もドルショック、オイルショックで一段落し安定成長へ移行した1970年代の日本は、年功序列・終身雇用の日本的雇用制度のなかで、大企業ならずとも一度就職すれば、その会社が倒産しない限りは定年までそこに勤めるのが一般的であった。労働時間は2千時間を超え(図2)、一方で、子育てを終えた主婦がパートタイムで働くライフサイクルが確立したのもこの時期だった。(図3)

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(図2)

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塩田咲子著『技術革新と女子労働』(国際連合大学、1985年)より引用

(図3)


 当時と今を比べると、失業率は他国ほど上昇していないが(図4)、非正規雇用が4割近くを占める現在、一方で正社員の「働き過ぎ」という弊害はあるものの、国民の総労働時間は大きく縮小している。まして、「働き過ぎ」の実態が労働の非効率化に起因するところが大きく、労働生産性という側面から見るとバブル崩壊以降ほとんど横ばい状態が続いており(図5)、賃金水準に至っては、特に非正規雇用労働者の場合、前述したように労働力の再生産さえ満たし得ない「飢餓水準」に置かれている。

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(図4)

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(図6)

1パーセントに集中したお金はどうなるか?
 では、かつて中流化した労働者に行き渡っていたお金がどこへ行ったかといえば、一部の大企業と全人口の1パーセントともいわれる富裕層にだ。大企業は新たな投資に回さない剰余金を内部留保として大量に蓄え、金詰まりを起こしている。
 一方、金持ちになりすぎた富裕層はといえば、人間の欲望は限りないとはいえ、ひとりの人間が消費できる量には限りがある。どこかの元社長のようにギャンブル依存症にかかりラスベガスで億単位のギャンブルにふけるならいざ知らず、豪華客船で世界一周をしたところで、夫婦ふたりで1千万円といったところ、大気圏外へ行く宇宙旅行が1回2千万円といったところ。どちらも年に1回行ければいい方だろう。あとは日常生活でいくら贅沢な暮らしをしたところでたかがしれている。
 アメリカの一部の大富豪のように慈善事業で国民に還元するのもいいが、慈善はしょせん偽善、わずかばかりの社会還元で大富豪の倫理観と篤志家意識を満足させるくらいなら、最初から税金としてすべての富裕層にしっかり社会還元してもらった方がはるかに効率的だし理にかなっているだろう。
 結局、使い切れずに有り余ったお金は自宅の金庫の中か銀行の貯蓄として退蔵するか、投資目的のマネーゲームに費やされる。入ってきたお金には所得税、持っているお金には財産税がかかる。税金が多ければ多いほど持っているお金も多いということの証明なのだが、人間の思考は都合よくできているもので、彼らには課税される金額にしか目が向かないから損をした気になる。そこで、国内の財産がタックスヘイブンへ逃げていくことになる。個人だけではない、企業も同様だ。
 これでは、いくら財政出動、金融緩和を政策的に行ったところで、経済成長に結びつくことはない。ましてや、企業や1%の富裕層に集中したお金が、貧困層にしたたり落ちていくトリクルダウンの奇跡など起こるはずがない。

解決策を持たない既成政治
 しかし、これらの原因がすべて「アベノミクス」にあるのでないことも確かだ。アベノミクスを批判する野党は、社会保障の充実や貧富の格差是正、子どもの貧困解消、最低賃金の引き上げ、非正規社員の正規化、給付型奨学金の創設等々、総論・各論それ自体間違っていない政策を掲げるが、そうした社会福祉型政策を半世紀以上にわたって実施してきた西欧諸国が、やはり日本と同じように経済や財政が行き詰まり、「これまで通りにやっていけない」現実に直面しているのだ。とりわけ日本は、DGPの2倍という世界最大の財政赤字を抱え、借金を借金で返すという、自転車操業の段階をとうに通り越した、企業や個人ならとっくに破産している危機に陥って久しい。
 家が老朽化し壁や天井、床が崩れ抜け落ち、おまけに台所からは出火しているというのに、家族全員がそれらを見て見ぬふりをして日常生活を送ろうとしているのが今の日本の現状だ。まともな精神の持ち主なら、今日の生活をどうするか以前に、この現状にどう対処し、どう危機を脱していくか真剣に考え、計画を立てて実行していくことだろう。
 いや、大変なことになっているのはわが家だけではない。一歩外に出れば、地球村全体が、程度の差こそあれ、わが家と同じように老朽化し、これ以上そのまま住み続けることが難しくなっている。根本的な解決策を探さなければ、村全体がいつか廃墟と化してしまうだろう。
 その特効薬であり、有力で有効な処方箋こそが、ベーシックインカムだと私は思う。あるいは、これ以上住み続けられない、住んでいては危険な家を一時的に待避し、新しい家を再建し、村全体が再生するまで人々が避難する仮設住宅がベーシックインカムだと考えてもいい。
 もちろんこの場合、「古い家」「古い村」とは資本主義社会、資本主義世界であり、「新しい家」「新しい村」はポスト資本主義社会、ポスト資本主義世界(今のところそうとしか呼びようのないもの)である。

ベーシックインカムの財源問題
 ベーシックインカムを論じると必ず言及されるのが財源の問題だ。1人当たりいくら支給するといくらの財源が必要になるが、ある人はそれを所得税で賄うといい、ある人は消費税引き上げで賄うといえば、またある人は相続税を百パーセント課税すれば解決できるという。しかし、そうした議論は現在の経済システムと財政状況を前提にして、その延長上にベーシックインカム支給を展望した議論だ。
 私はそうした議論に与しない。今まで述べてきたように、今世界が喫緊の課題として迫られているベーシックインカム支給政策は、少なくとも日本においては政治経済のかなり大胆な改革、あるいは革命なしには実行不可能であり、他の国々においても、その性質上、多かれ少なかれ革命的性格を帯びたものになるであろう。それは、決して一部の新自由主義者が都合よく構想するような、既存の社会保障制度の煩雑性を一元化し、かつ貧困層の経済的底上げによって格差・貧困問題を緩和しようなどという折衷主義的次元の問題でないことは、これまでの議論で納得していただけるだろう。
 とりわけ今の日本の状況でネックになるのが、1千兆円を超える財政赤字だ。ギリシャの政権与党・急進左派連合がベーシックインカムを掲げながらも現実にはそれどころでないのは、巨額の財政赤字を抱えてEU諸国から厳しい緊縮財政を求められているからだ。当初それを拒否したチプラス首相も、デフォルトを回避するために結局、EUとの妥協という現実路線を選択せざるを得なかった。

1千兆円を超えた財政赤字
ついに1千兆円を超えた財政赤字。これは少々の痛みを伴った「改革」で解消できる問題ではない。以前は「日本の財政赤字は、対外債務は一部に過ぎないから、いくら増えても全然問題ない」などと脳天気なことをうそぶく「政府批判派」とおぼしき人々が少なからずいた。

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財務省(表1)

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財務省(表2)


 しかし、2016年度予算を見ると、国債費は歳出の24%を占める23兆4507億円だ。(表1)実に予算の4分の1を借金返済に充てている。歳入に至っては38%と4割近くを国債発行=借金でまかなうことになる。これを称して、「国の借金を国民ひとり当たりに換算すると860万円」などとよくいわれるが、冗談ではない。国民の多くはその恩恵をほとんど受けることなく、毎年搾り取られた税金で、国債を買った人や機関への償還費や利息を払ってきただけだ。一般会計には現れないが、特別会計から年間100兆円近くが国債償還費として支払われている。(表2)つまり、国にとって赤字財政の根源となっている国債発行も、それを買った人や機関は、これまで巨万の利益をそこから得てきているのだ。
そして、日本の財政赤字の9割近くを占める国債所有者の過半は、銀行・保険会社等の金融機関が占めている。(図7)「赤字財政、問題ない、問題ない」と楽観論を振りまいていた人々は、結局金融資本に都合のいいことをいわされていただけのことだったのだ。

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(図7)

 ここらで借金をチャラにしても、バブル崩壊後の金融破綻の危機を公的資金の投入、つまり国民の税金によって救ってもらった金融機関に文句を言われる筋合いはない。その代わり、二度と赤字国債を発行しないという縛りをかける必要はあるだろうが。たしかに、「日本の財政赤字は対外債務は一部に過ぎないから」、そのことによって日本が、EUに厳しく責め立てられているギリシャや、貪欲なウォール街に身ぐるみはぎ取られそうになったアルゼンチンのようになる心配はない。ただ、金融機関に少々の急性の痛みにしばらく耐えてもらえば済むだけのことであり、大部分の金融機関はそれに耐えうる体力を持っているだろう。ただ、なけなしの財産を国債につぎ込んだ個人投資家の一部の人々には、それなりの保証が必要になるだろうが……。

国債の「永久債化」か、「積極的デフォルト」か?
 これは極論だろうか? 非現実的な解決策だろうか? 極論といえば、岩村充早稲田大学大学院教授が、日銀が保有する400兆円近い国債(国債発行額の3割超)の一部を「永久債化」、つまり返済期限を定めず塩漬けしてしまおうと主張して物議を醸している。アベノミクスのもとで日銀の国債保有残高は急速に上昇し、このままでは2023年には100パーセント日銀が保有することになってしまう。これを「永久債化」することは、そうと目立たせずに事実上、借金を棒引きすることではないのか? しかもその矛盾の解決を永遠に先送りして。
 朝日新聞編集委員の原真人は「岩村案自体にも国債や通貨円の信用を揺るがしかねない危うさはある。ただ、これまで暴論、極論と遠ざけてきたものでさえ、本気で検討せざるを得なくなってしまった。そこに、いまの日本の財政と金融の恐ろしい現実がある。」と述べている。(「朝日新聞」2016年6月14日、「ヘリコプターマネー、禁断の策も選択肢になる金融の現実」)
 いずれにしろ、1千兆円という天文学的数字に膨れ上がった財政赤字はこれ以上放置しきれない危機的状況にある。都合のいいマジックでつじつま合わせをするより、責任を負うべき者が責任を負い、恩恵を受けてきた者がそのツケを払うという、よりまっとうな「積極的デフォルト」を行った方が、日本の国際的信用が負う傷もはるかに少なくて済むのではなかろうか?

財政の一元化と抜本的な税制改革
 第2に、民主党政権も手をつけようとしてうまくいかなかった特別会計の問題だ。こちらは200兆と一般会計の倍以上の規模で、不透明な処理が問題にされてきた。例えば電源開発促進税は全額、電源開発促進対策特別会計に充てられ、国民の目の届かぬところで原発の電源立地・利用促進対策財源として湯水のように使われてきたという悪弊が、3・11後に指摘されもした。
 もちろん、様々な有事に備えてあらかじめ予算を確保しておくことは必要だろう。だったら予備費として予算を毎年一定額確保しておき、収支決算をすべて透明化すればいいだけの話だ。
 赤字財政の「痛みを伴う」解消と、特別会計の廃止による一般会計への一元化によって、赤字国債をこれ以上発行することなく、財政の健全化が図られるだろう。
 そのうえで、法人税や所得税の適正な水準までの引き上げ、一定額以上の相続税の百パーセント課税、そして「広く薄く課税する」観点からの適正な消費税率を、欧州諸国並みの軽減税率導入とセットで定める、等々の税制改革を行えば、現行の生活保護の生活扶助費を上回る10~12万円程度のベーシックインカム支給が可能になるだけでなく、それプラス医療費の完全無料化、保育を含む幼児教育から高等教育までの教育費の無料化、無住宅者への家賃補助・住宅供給などの福祉政策の充実も可能になるだろう。*
*もちろん、ベーシックインカムの給付により、生活保護制度、年金制度、雇用保険制度をはじめ、児童手当て等様々な社会保障制度が不要になり、ベーシックインカムに一元化されることは論を待たない。

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